三和酒類安部 謙一
――三和酒類のSCM本部とは、どんなお仕事を担っている部署ですか。
ものづくりに必要な原料調達をはじめ、生産、出荷までを高い品質と高い生産性で統合マネジメントするのがSCM本部です。その業務に必要なリソースを集め、サプライチェーンとして付加価値を生んでいく役割とも言えます。
本格焼酎「いいちこ」では、原料大麦にこだわりを持って製造していますが、国内産の大麦だけでなくオーストラリア産の大麦も使用しています。そのため、現地の大麦関係者とコンタクトを取り合い、緊密な関係を築いて、高品質の原料を安定的に調達してくることが、SCM本部の大きなミッションの一つになります。
オーストラリアの農業は耕作面積が広大で圧倒されます。農業大国としての歴史もあり、大麦栽培に関してとても熱心です。三和酒類との関係も40年近く前から継続されており、大麦品質について現地の関係機関とのつながりを築いています。
――オーストラリアの農家さんとは、どんな風にやりとりをするのですか。
5年ほど前から、直接現地の農家さんを訪ねてコミュニケーション取っています(2020年、21年はコロナ禍のため訪問は行っていない)。直接会って我々の想いや考えを伝えることで、お互いの理解も深まりますから。年に1度、「グロワーズミーティング」という大麦農家さんとの話し合いの場に参加させていただいています。ミーティング会場には、100人を超える農家さんに参加いただいています。それを3日間かけて午前と午後の2度行いますので、1回の現地訪問で多くの農家さんとお会いし、コミュニケーションを取ることができます。
ミーティング参加の目的は、焼酎造りにおける大麦の重要性を農家さんにお伝えすることです。オーストラリアの農家さんは、もともと焼酎がどんなものであるか詳しく知っているわけではありません。私たちの造った本格焼酎を紹介しながら、この商品には、こんな大麦が必要なんだ、ということを説明していきます。さらに、焼酎原酒の種類に合わせて大麦に求める要素も変わりますので、それぞれの品質基準を満たした大麦栽培をしていただけるように、情報のすり合わせをしています。
――地元・大分県宇佐市の大麦の生産農家さんとは、どんな風に関係を築いていますか。
地元の方々には、大分麦焼酎®「西の星」の原料となる大麦「ニシノホシ」を栽培していただいています。栽培をお願いするようになって20年になりますから、生産者の方々ともつながりが生まれています。そして、交流を重ねてきたことで、今ではお互いに顔の見えるお付き合いになってきました。人と人との関係が良いものづくりには重要なんです。
毎年、「うさ農業祭」というイベントの企画・運営をしていますが、これは大分県宇佐市認定農業者*の団体である「うさファーマーズ」とJAおおいた、三和酒類が三位一体になって行うイベントです。例年、イベントを開催して農産物や農機具の販売などをする中で展示ブースを設営して、三和酒類はお酒のふるまいを行うことで、みなさんに楽しんでいただいています。
*宇佐市認定農業者:経営改善を図ろうとする農業者が作成した「農業経営改善計画書」を宇佐市が認定農業者制度に基づき認定する。認定農業者に対しては国の支援策等が重点的に行われる。
残念ながら、2020年から2年間はコロナ禍という状況もあって通常の形での開催はできませんでしたが、その代わりに三和酒類の本社で、自動車に乗った形で参加してもらうドライブスルー型のイベントとして開催しました。このときは一般参加者に農産物と焼酎の詰め合わせをプレゼントして喜んでいただけました。幅広い世代の農業関係者と三和酒類の社員が積極的に参加してくれるようになり、イベントの企画を考えていく段階でも深いコミュニケーションが生まれています。
こうした交流を繰り返すことで、生産者の方々の想いや考えも伝わってきますし、三和酒類の想いもニシノホシ関係者の皆さんにお伝えすることができます。私たちの気持ちをしっかりと伝えて、お互いに良い関係を築かなければ、美味しい焼酎も造れないだろうと思っています。
――衛生管理面では、どのような配慮や指導を行っているのですか。
ここ数年、食品の安全性を高めるための環境整備は、より重要になってきていると感じます。FSSCという食品安全の規格を取得し、手洗いや消毒の徹底、異物除去の充実、工場内の入り口の二重化、施設内のゾーン分けなど、お客様に信頼していただける安全安心なものづくりに取り組んでいます。新たな取り組みを実行してもらうのは現場の皆さんです。こうした取り組みは、現場にとって負荷になることもあります。それをどう納得して実行してもらうかが重要になりますね。
現場とのコミュニケーションで私が心掛けているのは、自分の言葉として説明すること、嘘をつかず真実を語ること、熱量を持って語ることです。ついつい大きな声になることがありますが……。時代に合わせて「安全安心」のために何をしていくかを考え、組織の成長につながる仕組みづくりを現場の皆さんにお願いをしていく。私が何かをしてきた、というよりも、現場の皆さんが時代の変化を理解し変わってくれたことへの感謝のほうが大きいですね。私は仕組みや環境をつくり、現場をサポートすることが仕事ですので、そのような中で少しでも「大きな声」が届けば幸せです。
――品質向上のために働く現場でどんな変革を促してきたのでしょうか。
昭和、平成、令和と、それぞれの時代に働いて変化を感じると同時に多くのことを教わってきました。働くことの意義や感性を磨くことの大切さ、品質へのこだわり、工場をデザインする思考など、今の私の礎となっています。そんな中で、ものづくりの現場に求められる変化は、変革というような大きなことではなく、小さな仕組みの改善や、そこで働く人たちの成長だったと思います。そして、みんなで知恵を出し合いながら、細かなことを改めていくということを繰り返してきたように思います。だから、一緒に仕事をする人たちに、どうすればポジティブな思考になってもらえるかということはよく考えてきました。新しいことへのチャレンジを面倒くさいと思うか、やってみたいと思うか。それで結果は全然違いますから。
その結果、現場の人たちが成長してくれれば、すごくうれしいです。人には、少し背伸びをすれば手が届くような成長の瞬間がありますよね。どう背伸びをしていいか分からないときに、そのきっかけを作ってあげられるような仕事が私は好きです。働くからには前向きに挑戦し、成長を感じられるような仕事をしてもらいたい。私にとって、現場の人が仕事の学びから成長してくれることが一番の喜びであり、私自身のモチベーションにもなります。その成長の喜びを教えてくれたのは、三和酒類で共に働いた先輩や仲間の方々です。
――個人の個性や適性をどう捉えていますか。
個人の個性や適性は理解してあげられるよう努力をしているつもりです。その人をきちんと見て、ひとりの人として知ることから始めたいと思っています。その人のことを知らなければ成長を応援することができませんから。でも、適性や個性はすぐには分かりません。だから、毎朝の掃除の時間、一緒に行く出張の時間、定期面談の時間、飲み会の時間を大切にしたリアルなコミュニケーションを積極的に持ち、「将来どうなりたいのか? 何がしたいのか? 悩みはないか?」などを出来るだけ知りたいと思っています。誰もが同じではありませんから。将来、その人たちの持つ個性や感性が、自分の力となり、充実した会社人生が送れるよう、私自身も気づきを大切にしながら、周りとのかかわり方を学び続けていかなければなりません。
――SCM本部での仕事の中で、新商品が形になった時というのは、どんな気持ちになるものですか。
新商品だけではないですが、商品化していく過程で、それぞれの立場で意見があり、時には分かり合えないこともあります。そんな過程を経て実現した商品には、開発してくれた人の想いと企画通りに酒質もパッケージも完成したということへの安堵感があります。そして、お客様に対して「安全安心な商品をしっかり安定供給できるかな」「美味しく飲んでいただけるかな」という心配も始まります。ただ、その段階になると、私は実際にものづくりを行う現場の力を信じているだけです。そして、新商品もそこで働く現場の人々も一緒に成長し、「実」を結んでほしいと願っています。
PROFILE
安部謙一(あべ・けんいち)
三和酒類株式会社 SCM本部 執行役員本部長
入社してから一貫してものづくりの現場に携わり、原料調達から焼酎製造、ボトリング、物流までトータルで携わってきた。また市場のお客様の声にお応えするため、製造設備の新設増設の建設や立ち上げに携わり、市場への安定供給体制強化を行う。また環境変化に合わせた様々なプロジェクトにも関わり、その実績から“ものづくり、ひとづくりのプロ”と言える。
またプライベートでは3人の娘の厳しくも優しい父親としての一面と2007年までは会社の野球部の監督として、若手の兄貴のような存在である。