SFWSC受賞レポート
世界最大級の蒸留酒品評会SFWSC 2023で、三和酒類の麹を使ったスピリッツ「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」がOTHER WHITE SPIRIT部門の最高賞(Best in Class*)を獲得しました。2023年6月17日、米国ラスベガスのコンベンション会場(Resorts World Las Vegas)で関係者数百人を集めて開かれた授賞式の場で初めて発表されたもので、三和酒類 副社長の西和紀が壇上でプレゼンターから栄えあるトロフィーを受け取りました。* 部門最高賞:トロフィーには「Best in Class」、メダルには「BEST OF CLASS」と刻印されていますが、いずれも同じ賞を指します。
SFWSC 2023には世界中から5,500点超の蒸留酒のエントリーがあり、バーテンダーやホテル、レストラン、酒卸会社などに勤める酒類業界の専門家、ジャーナリストらによりブラインドテイスティングを経て厳正に審査されます。
授賞式に先立つ2023年5月、本格麦焼酎「いいちこフラスコボトル」「いいちこスペシャル」「iichiko彩天」「iichiko RESERVE 禅和 2023」、スピリッツ「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」が最高金賞(Double Gold Medal)を受賞。さらに、「いいちこフラスコボトル」は焼酎として初めてのプラチナ賞(Platinum Medal/3年連続で最高金賞を獲得した銘柄に贈られる)を受賞したことがSFWSC事務局から案内されていました。
また、「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」がOTHER WHITE SPIRIT部門の最高賞(Best in Class)の候補として選ばれていること、最終発表は6月17日に会場で行われることまでが伝えられていました。そしていよいよ会場の壇上で、「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」の名前が告げられた瞬間、出席していた三和酒類の関係者にも笑顔が弾けました。
部門最高賞(Best in Class) | スピリッツ 「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」 |
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プラチナ賞(Platinum Medal) | 本格麦焼酎 「いいちこフラスコボトル」 |
最高金賞(Double Gold Medal) | 本格麦焼酎 「いいちこフラスコボトル」 |
本格麦焼酎 「いいちこスペシャル」 |
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本格麦焼酎 「iichiko彩天」 |
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本格麦焼酎 「iichiko RESERVE 禅和 2023」 |
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本格麦焼酎 「いいちこフラスコボトル」 |
――SFWSC 2023では5商品が最高金賞を受賞、「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」が部門最高賞を獲得と、素晴らしい結果ですね。
ありがとうございます。米国でも三和酒類の商品に対する高評価が定着してきたことを感じますね。また、つい先日、ニューヨークで開かれた蒸留酒品評会「アルティメット・スピリッツ・チャレンジ(以下、USC) 2023でも、「いいちこフラスコボトル」と「TUMUGI BUNTAN」が最高賞である「チェアマンズトロフィー」を受賞したんですよ。
――昨年ロンドンで開かれたインターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(以下、IWSC) 2022でも「iichiko彩天」が部門最高賞を得たりと、これまでに海外市場開拓のために打ってきた布石が実ってきたということでしょうか。
もともと海外のコンペに積極的ではなかった三和酒類でしたが、関係者から勧められて2013年にニューヨークのUSCに初めて出品した「いいちこフラスコボトル」が部門の最高賞をいただけたことが海外のコンペティションにチャレンジすることのきっかけになりましたね。「世界でいけるんじゃないか」という自信にもなり、ここまで出品を続けてきました。
米国の品評会の中でもSFWSCは2000年からスピリッツ専門のコンペティションとして始まり、歴史が長くて規模も大きいことから重要視しています。また、USCは評価が点数で表示されます。「いいちこフラスコボトル」は100点満点で96点、「TUMUGI BUNTAN」は95点という高得点を獲得しました。どちらもブラインドテイスティングによる厳密な審査による評価だけに、受賞と高い評価点数はとてもうれしいです。
<USCの評価点数の目安>
95-100 卓越している、究極のおすすめ(Extraordinary, Ultimate Recommendation)
90-94 優れている、高く推奨される(Excellent, Highly Recommended)
85-89 非常に良い、強く推奨される(Very Good, Strong Recommendation)
80-84 良い、推奨される(Good, Recommended)
――この快挙を今後、どのように国内外の販売につなげていくご予定ですか。例えば今回のSFWSCでは「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」が部門の最高の位置に評価されました。しかし、まだ米国市場では「TUMUGI」の取り扱いはないのですね。
これまではコンペで金賞を取ったことをパッケージやフライヤーに入れて示すなどして、日本国内の営業面でもプラスになっていると思います。もともと「TUMUGI」というのは、「日本の麹をベースにしたスピリッツを世界へ」、という考え方があり我々は「WAPIRITS(和ピリッツ)」とも呼びます。将来的なことも見越して海外のコンペに出してきて今回の受賞につながりました。
今のところシンガポールとオーストラリアに出荷実績があります。実はつい先日も、「東京 インターナショナル バーショー 2023」(5月13・14日、東京ドームシティ・プリズムホール)に来ていた香港のバーテンダーさんから「TUMUGIを早く香港にも出荷してほしい」と言われました。おそらく日本で1ケースとか数本とかを購入していただいて、それを手荷物で運び込んで、バーで出していただいたのだろうと思います。
――そのように海外のアンテナ感度の高い方々からも既に注目されているのですね。
そうなんです。お酒業界の方々というのは、お互いがSNSでつながって情報交換していて、面白そうとか、刺激があるとか、そういうものにはとても敏感ですよね。
私は、海外市場へのアプローチを考えている中で、いよいよ焼酎というものについて「新たな再定義」の時期が来たのかなとも考えています。
――焼酎の「新たな再定義」というのはどういうことでしょうか。
今をさかのぼること50年前に先人たちが、焼酎という飲み物の再定義をしたんだと思います。それまで九州の一地方のちょっと匂いの強い飲み物、これは九州以外の人からしたらきついし飲みにくい、そんな飲み物だった。そこにもろもろ技術革新が入った。減圧蒸留、ろ過方式、もろみの温度管理などといった技術の蓄積や革新が入って、焼酎の酒質というのが劇的に進化したんです。
ここで酒質が進化しただけでは新しいものができたというだけですが、その酒質に賭けて日本全国に広めようと考えた人たちがいたんです。たとえば、それまで日本酒を飲んでいた人たちにとっては50年以上前の焼酎は受け入れられないものだったはず。ところが新しい焼酎はこれは美味しいと受け入れられていった。ここで焼酎は匂いのきつい九州の飲み物から日本の美味しいお酒類に再定義されたのだととらえています。
――会場に併設された展示会の三和酒類のブースで「iichiko彩天」や「いいちこシルエット」などをストレートでテイスティングした方々が口をそろえて「drinkable(飲みやすい)」と感想を述べていたのが印象的でした。
50年以上前の焼酎は脂分が多く含まれていて、これが酸化するとつーんとした漬物臭を発する。これに焼酎の原料のもともとの匂いが合わさってクセのある匂いを発するわけです。それが焼酎の美味しさだという九州南部の方々もいて、それはそれでよかったんですが、そうでない焼酎も誕生してきて、それを全国に広めようという人が出てきたことから、焼酎が再定義されたのだと思うんです。
この50年の間に焼酎の消費量は日本酒をしのいで、まさに和酒のトップになりました。でも焼酎も海外に出たら、ウイスキー、ブランデー、テキーラ、ラム、ジンなどと並ぶ蒸留酒でありスピリッツの仲間なんです。これらの仲間と考えるとまだまだ焼酎にできること、行ける場所はいっぱいあるなと思います。
ウイスキーなどは日本では「洋酒」として、ワインやリキュールなどと同じカテゴリーとして扱われている。問屋やコンビニ、スーパーのバイヤーも和酒と洋酒で分かれている。しかし、日本を出てみたら関係ない。和酒と洋酒の垣根は越えていきたい。垣根を越えて、焼酎というポジションをスピリッツの中に作れたら、焼酎という飲み物をもう1度再定義できると考えたわけです。
――海外市場を視野に入れることで、焼酎というものを再定義して、新たなポジションを開拓していくのですね。ますます海外での新展開が楽しみです。
――焼酎というのは原料として麦以外にも芋や米などを使った多様性のあるお酒です。審査を通して芋焼酎、米焼酎と比べて麦焼酎はどんなところが魅力だと感じられましたか。
実は私は焼酎の中でもともと麦が一番好きなんです。ウイスキーに感じられるようなスモーキーさと穀物感がある。それが明確な特徴だと思います。でも、ジャッジする際には、他の全てのスピリッツ、ウイスキーやジン、ウオッカ、テキーラなどの審査と同様、口の中の風味のクオリティ、ヘッドとテールの間の質感、粘度、香り、それらのバランスなどをチェックしています。原料として麦だ、芋だ、米だということや、銘柄やメーカーなどを比べて審査しているわけではなく、全てブラインドで、それぞれの持ち味、個性だけから審査しています。
――今回、本格焼酎の「いいちこ」が4商品、最高金賞をいただきましたが、どんなことが印象に残っていますか。
もちろんアルコール度数自体が特徴を決める部分もありますが、結局は味のバランスが決め手となりました。他のメーカーの焼酎について言うと、抵抗力(restisity)や複雑さ(complexity)が強く出過ぎているように感じました。それらと比べて、「いいちこ」の商品ラインについては、共通して持っている遺伝子のようなものが飲んで分かるという印象がありました。
――SFWSCや昨年のIWSCなどで最高賞を受賞した「iichiko彩天」はアルコール度数が43度、「iichiko RESERVE 禅和」は40度と他の焼酎よりも度数が高いのですが、そういった高アルコール度数の焼酎が米国市場で受け入れられる可能性についてはどのように感じられましたか。
バーテンダーがカクテルを作るための要素に使う場合と、焼酎そのものを飲む場合と明確な違いがありますね。個人的には焼酎そのものを飲むのが好きですが、バーでカクテルとして客に出すもう一つのカテゴリーとしてはよりアルコール度数の高いものが必要でしょうね。度数が高い「iichiko彩天」などの方がバーのミキサーとしてのポテンシャルがありますし、米国市場で広まるとしたらこちらの方がいいのかもしれません。
――今回、部門最高賞を受賞した「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」について、どのように感じられたか率直なところを教えてください。
まず、焼酎カテゴリーやウイスキーカテゴリーでエントリーせずにスピリッツでエントリーしたことが興味深い。すごく革新的な商品だと感じました。焼酎を普及させるためのマーケティング方向としても、サクセスフルなのではないか。また、味わいとして、とても深みがあるし、その琥珀色が魅力的です。新しい飲み手のタイプを広げて、消費者の視界をより広げてくれる商品だと思います。
――焼酎づくりの特徴として製造工程で麹の発酵を使います。それが海外の消費者にとっては分かりにくいかも知れません。麹を使うことは米国市場ではどのように評価されますか。
これは他のスピリッツと比べてとても有利だと思いますよ。他のカテゴリー、例えばウオッカ、ラムなどと明確に違うところですよね。麹の存在は喜ぶべきことです。消費者に啓蒙(教育)が必要だという側面を生み出している。これがアピールのキーポイントですね。焼酎の特徴として麹がある。日本の焼酎と韓国の焼酎(ソジュ)との区別の仕方を強調するのではなく、麹の効果や、成分の違いなどを打ち出すこと。このあたりはスマートな(学びたい意思のある)消費者は学びたがるポイントだと思いますよ。
PROFILE
Eduardo Dingler(エドゥアルド・ディングラー)
ジャーナリスト、酒類コンサルタント、SFWSC審査員(OTHER WHITE SPIRIT部門担当)
1981年、メキシコ生まれ。米国のナパバレーを中心に飲食店で勤務経験をもつ。お酒全般をテーマにした文筆活動と並行して、JETRO(日本貿易振興機構)との焼酎、日本酒、ウイスキー、クラフトビールのプロモートの仕事や、オンラインによるワイン小売りサイトの運営なども手掛ける。Wine Access ワイン担当副社長。