三和酒類 代表取締役副社長西 和紀
2022年4月、本格麦焼酎「iichiko彩天(さいてん)」が、歴史と権威を誇る世界的な酒類コンペティションである「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション2022(IWSC 2022)」において、「最高金賞(Gold Outstanding)」ならびに、焼酎部門の頂点となる【トロフィー(Trophy)】を受賞しました。当社製品がこのコンペティションで【トロフィー(Trophy)】を獲得するのは、2016年に出品した「いいちこスペシャル」以来2度目の快挙です。
IWSCは1969年に創設された、世界で最も影響力のある酒類コンペティションの一つ。ワイン、ウイスキー、スピリッツなどの部門で、世界各地から選ばれた審査員により、ブラインドテイスティングを中心に選考される。2022年には90カ国以上から4,000点を超えるエントリーがあった。焼酎部門では最高金賞(Gold Outstanding)3点、金賞(Gold)13点、銀賞(Silver)49点、銅賞(Bronze)13点を選出。最高金賞(Gold Outstanding)の中から、部門最高賞のトロフィー(Trophy)が選ばれる。
毎年ロンドン市内のイベント会場に上位入賞者が招かれ、授賞パーティーが開かれる。「IWSC 2022」の授賞パーティーは9月29日開催。会場となったRoundhouse(ラウンドハウス)は1847年建造で、かつては鉄道機関車の整備保管のために使われる円形の建物だった巨大なイベントスペース。著名アーティストや劇団の公演などを催すライブ会場として利用されている。
混み合うラウンドハウスの会場内で「iichiko彩天」の試飲をしてもらった参加者の方に、ショートインタビューを試みました。そのサマリーをご紹介します。
◇「iichiko彩天」について
Joel:飲んでみて、これはとても驚くべきものです。アルコール自体が造り手の意図を反映しているのであるならば、パーフェクトと言っていい商品です。
西:ありがとうございます。
Joel:エレガントで素敵なボトルですね。
西:これは日本の竹をイメージして作っているんですよ。
◇「iichiko彩天」について
西:飲んでみて感想はいかがですか。
Lucia:アルコール度がとても高いけれど飲み口、舌触りがすごくスムースで飲みやすいですね。
◇「iichiko彩天」について
Sunny:酸度と共にとてもバランスがいいです。
西:この商品はバー向けに開発した商品で、酸度と余韻に非常にこだわっています。
Sunny:この商品はどうやって飲むのが最適なのでしょうか。
西:サワーやカクテルにして飲むのがいいと思います。
Sunny:なるほど。私はサワーがいいと思います。カクテルならば、卵白を入れてシェイクして飲むのが合うような気がします。
――「iichiko彩天」のIWSC焼酎部門の最高賞であるトロフィー受賞おめでとうございます。まずは受賞のご感想、そして受賞の意義についてお聞かせください。
ありがとうございます。かつてワインや蒸留酒を世界中に広めた“大英帝国”ですが、現代のUnited Kingdomで開催されるIWSCできちんと評価されたことは、非常に栄誉あることだと受け止めています。本格焼酎「iichiko」を世界品質として認知してもらい、世界の多くの方に知っていただけるチャンスをいただきました。
今回の結果から、麹から造られた蒸留酒のほんのりとした甘さや普遍的な美味しさについては一定の評価を得られたと言えると思います。しかし、焼酎の原料や製法などの認知についてはまだまだだと思います。今後もチャレンジを続けて、もっと認知度を高めて、より愛されるスピリッツになれるように理想の酒質を追求していきます。
――ここで、世界のコンペティションの中のIWSCの位置付けを教えてください。
世界にはさまざまなコンペティションがあります。3大コンペティションといえば、IWSCと、英国のISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)、米国・サンフランシスコのSFWSC (サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション)でしょう。これに加えて、ニューヨーク(NY)ではUSC(アルティメット・スピリッツ・チャレンジ)といった大規模なコンペがあり、これらが市場に与える影響力には大きなものがあります。その中でもロンドンのIWSCは別格だと思います。
また、各コンペそれぞれ、ローカルな特徴はあるのですが、ここ数年、これら世界規模のコンペで「焼酎カテゴリー(部門)」が設けられてきたことは我々にとって重要な変化だと思います。私たちが世界のコンペに出品を始めた2014年、2015年頃は、焼酎が「その他スピリッツ」のカテゴリーだったり、「バイジュウ(白酒)・ソジュ・アンド焼酎」という一緒くたのカテゴリーだったりしました。これが今はしっかり「焼酎」というオンリーワンカテゴリーができているのです。これには勇気づけられますね。
名称 | 開催概要 | 2022年のエントリー | |
---|---|---|---|
IWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション) | 1969年に創設された歴史あるワイン、日本酒、蒸留酒のコンペティション。毎年英国・ロンドンで開催 | 1969 | 90以上の国から4,000点を超えるエントリー |
ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ) | 英国・ロンドンで毎年開催される蒸留酒のコンペティション。専門誌「Drinks International」主催 | 1995 | 約70カ国から1,900点を超えるエントリー |
SFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション) | 米国・サンフランシスコで毎年開催される蒸留酒の大規模なコンペティンション | 2000 | 40カ国以上から5,000点を超えるエントリー |
USC (アルティメット・スピリッツ・チャレンジ) | 米国・NYで毎年開催される蒸留酒のコンペティション。蒸留酒評論の権威 F.ポール・パカルトが創始者 | 2010 | 世界各国から1,000点を超えるエントリー(2021年) |
――「iichiko彩天」は、開発プロジェクトを米国で立ち上げられたのですね。いつ頃、どのような狙いで、プロジェクトをスタートされたのですか。
2016年から米国で「F1プロジェクト」という名称で発足しました。このネーミングは、米国在住で弊社顧問の山本義博さんの影響が大きいです。かつてカリフォルニアのワイナリー再生に寄与された実績をお持ちの山本さんは、酒類の主要コンペティションの活用を重視されていました。「コンペに出品して品質向上に取り組むことは、カーレースのF1グランプリが果たす役割と同じだ」という山本さんのお話を伺い、プロジェクト名にF1と付けたのです。それからは毎年コンペに出品をして、コンペ結果のフィードバックも参考にしながら、さらなる品質の向上に努めてきました。
具体的な商品名は「iichikoリザーブ 心和(しんわ)」と「iichikoリザーブ 禅和(ぜんわ)」の2種類です。いまではどの海外コンペでも90点以上の高得点を取れるように力をつけています。今回のIWSCでも心和、禅和共にシルバー賞を獲得できました。
こういった商品は海外市場への投入を視野に入れているので、米国の腕利きのバーテンダーと密に意見交換しながら、商品の品質や特性を決めていきました。
――何人ぐらいのバーテンダーと、どんな意見交換をされているのですか。
いまは4人います。英国出身の世界的なバーテンダーでありメンターでもある人と弊社の米国駐在員と交流があり、その人からさらに3名の腕利きのバーテンダーを紹介してもらいました。当時は、おぼろげに心和か禅和のどちらかを海外市場に本格投入しようかと考えていましたが、4人のバーテンダーとの意見交換の中で、「コンペで勝つ酒と、普段バーで扱いやすい酒とは違うよね」、という話が出てきて、そこからコンセプトを詰めていき、「iichiko彩天」の開発方針を決めました。彩天はバーで扱いやすい酒質を目指そうと。
――バーテンダーからの「バーで扱いやすい酒」というのはどういうものなのでしょうか。
ニート(ストレート)でもカクテルベースでも美味しい酒。特にボディー感があって、シェイクしても腰砕けにならないものです。バーテンダーとの意見交換の場では、お互いの感覚的な認識のギャップを埋めるために、サンプルを基にテイスティングなどの実体験を交えて微妙なニュアンスの共有を行いました。そうして得られた知見を酒質開発に反映させていったのです。
これまでコンペに出したものは、ちょっとシャープ(切れのある)な酒質の方向に落ち着きがちでした。しかし、バーテンダーとの意見交換を繰り返して、基本的にテクスチャーの多い、味わいの種類の多い酒質の方向に向かいました。
一方で、バーで使う酒として一般的な本格焼酎は20〜25度、高くても30度ぐらいとアルコール度数が低い。それではパンチが弱いという意見もあり、それも「iichiko彩天」の開発に反映されていきました。
――「iichiko彩天」の「テクスチャーが多い」というのは、どういう意味ですか。
例えば、「iichiko彩天」と「いいちこシルエット」の味わいを比べると、彩天はシルエットよりも酸味が感じられるし、乳酸的なニュアンスも感じるし、若干最後のほうに麦藁(むぎわら)の香りとかも出てくる。こうした味わいの成分が多い、濃い、といったニュアンス、これをテクスチャーが多いと言います。
――ワインの評価に使われるような言葉ですね。
英国には「WSET(Wine & Spirit Education Trust)」という、ワインとスピリッツについての学習プログラムと資格試験を実施する団体があります。日本で言えばソムリエ資格のようなものです。この学習テキストの2019年版からスピリッツ部門に焼酎の項目が加わりました。WSETにはワイン、スピリッツ、酒の3部門があり、それぞれの部門のトップはマスター*と呼ばれます。*マスター:例えばワイン部門のトップはマスターオブワインと呼ばれる。学者レベルとも言われ、その前の「レベル4 diploma」(2年ぐらい履修にかかる)を履修したうえで、英語で論文を書き、それがWSETに認められたら称号がもらえる。世界31か国で416名(2021年時点)。日本在住の日本人では初めて大橋健一さんが称号を授与された。「レベル4 diploma」を日本国内で修了した人は約90人。「レベル3」が日本のソムリエ資格と同じ程度と言われる。
実は私もWSETのプログラムを受講しているのですが、ワインの授業ではテイスティングのノウハウ、コメント法も習います。その経験からなのですが、世界の主要コンペティションのテイスティングコメントというのはWSETがベースになっていて、それに準拠している可能性が高いように感じました。
WSETのプログラムを受講してみて分かったことは、先述したようなテクスチャー(味わい成分)が多くて、凝縮感があって、余韻が長いものが品質が高いと評価される方向性でした。
――「テクスチャー、凝縮感、余韻」がキーワードなんですね。
それは開発現場にも伝えて、国際的な商品にはそういう品質で訴えかけていきたい、という方向でやっています。F1プロジェクトでは、アドバイザーであるバーテンダーたちに麹の特徴香を嗅いでもらい、それを彼らがどう表現するか。マッシュルームとか、土という表現があり、それに近い香りがするものをサンプルの中から選んでいく。なおかつ余韻がちゃんと残る味わいの強いものがいいというものも選んだ。彼らはよく、余韻が長いと次の1杯が飲みたくなると言うので、余韻の長さはとても重要なんだと思います。
長らく和酒の世界では、日本酒の流れから、引っ掛かるところがなく、するっとのどに落ちていき、切れの良い、つまりすっと消えていくようなものが美味しい、品質が高いと考えられてきました。でもそうではない世界基準というものがあるということを「iichiko彩天」の開発では意識してきました。
――米国市場では、まずはバーテンダーを通じてバーから浸透をはかっていったのですよね。
それまでは日本食を出すお店への営業が中心だったのですが、「iichiko彩天」はもっとローカル(一般的な地元)の米国人が行くお店でも飲んでいただきたいと考えました。それならばどこで勝負するかとなったときに、バー業界で勝負するのが一番いいのではないかということになりました。
日系のお店ではなく米国のローカルの売り場に商品を卸せる代理店と契約して、2018年から「iichiko彩天」のテストマーケティングを開始、2019年に正式に販売開始したという経緯です。
現在採用してもらっているバーは500店舗ぐらいです。LAとNYが中心になりますが、シカゴ、サンフランシスコ、ワシントンDC、ニューオーリンズなども。いずれも各地のトップバーを中心に進めています。
良いものに関してアンテナ感度の高い、人気のあるバーテンダーたちにも、しっかり「iichiko彩天」を支持してもらっています。
2021年からシンガポールで販売を開始しました。これから英国です。やはりIWSCやISCの結果というのは業界人ならチェックしていると思いますので、今回の受賞は営業活動の後押しになりますね。
――三和酒類は日本酒の「和香牡丹(わかぼたん)」や「安心院(あじむ)ワイン」などもお持ちですが、それらの海外戦略の青写真を伺えますか。
「和香牡丹」は米国輸出を開始しました。シンガポールからも引き合いがあり出荷の計画中です。国内外のコンペでも上位入賞しているので、それらと絡めて訴求していくところです。「安心院ワイン」は「安心院スパークリングワイン」が香港フォーシーズンズホテルで採用されており、自社ワイナリーである安心院葡萄酒工房をアジアの中でもトップ5に入るワイナリーとしてブランド認知していただけるよう、クオリティーの高い飲食店を中心に展開を計画しているところです。
――三和酒類には「iichiko彩天」と同じアルコール度数43度のスピリッツ「TUMUGI」という商品があり、世界のコンペでも高い評価を得ています。彩天と「TUMUGI」はどのような関係をもって展開していくのでしょうか。
「TUMUGI」は焼酎原酒と5種類のボタニカル原酒をブレンドしたスピリッツです。一方、「iichiko彩天」は焼酎です。
「TUMUGI」は、我々和酒の世界の人が、バー業界という洋のドリンク中心の世界で、新たなお客様を開拓しようと2015年から国内販売を開始した、和と洋の架け橋のような位置付けです。これが、すごく手応えが良かった。ホワイトスピリッツなのに、麹由来のテクスチャーがあり、和のスピリッツということで「和ピリッツ」と呼んでいます。アンテナ感度の高い日本のバーテンダーに高く評価していただきました。
国内でこれが受け入れられたので、これを持ってまずは米国市場に向かおうと、旧知のバーテンダーに相談したところ、「三和酒類のアイデンティティーである焼酎を出すべきなのでは」という意見をもらいました。大変ですが挑戦し甲斐があると思いました。そこで、本格焼酎という直球で勝負する開発プロジェクトを立ち上げて、造り上げたのが「iichiko彩天」だったというわけです。
――「TUMUGI」はボタニカルを浸漬(しんせき)したことで、酒税法的には焼酎ではなくスピリッツですね。IWSCのコンペのカテゴリー(分類)では、「TUMUGI」はothers spiritsです。今は海外のバー向けに三和酒類は本格焼酎「iichiko彩天」とスピリッツ(和ピリッツ)「TUMUGI」という2つの商品を持ったということですね。
それともう1つあります。「The SG Shochu」という焼酎ブランドです。国内外でバーの開発・運営をしているSG Groupというバーカンパニーとの共同プロジェクトで開発した、米・麦・芋の本格焼酎です。芋は白波さん(薩摩酒造)、米は白岳さん(高橋酒造)。麦は三和酒類がそれぞれ製造を担当しました。2020年2月に国内販売を開始したのですが、直後からコロナ禍の影響もあってなかなか進められなかった。今年になってようやく米国に出荷できました。これからのバー市場での展開を狙う商品です。
――今後、海外市場で、どのように「麹(Koji)」、そして「Shochu」を普及・浸透させていくのでしょうか。
まずバーテンダーたちの中でも勉強熱心でアンテナ感度も高い人は、日本の酒の製造過程で麹が重要な働きをしていることを知っていますし、「iichiko彩天」や「いいちこシルエット」をテイスティングして、「これは麹のニュアンスがする」というコメントを出したりします。料理関係の人だったら間違いなく麹への理解は広まっています。
サンフランシスコでも麹について現地の人向けのワークショップをしている日本人がいます。デンマークのコペンハーゲンの「ノーマ」という世界ナンバーワンと言われているレストラン。ここの料理でも麹がリスペクトされています。
大分県佐伯市で塩こうじを全国ブームに押し上げた糀屋本店の「こうじ屋ウーマン」こと浅利妙峰社長が、海外に行って麹の説明をするときは、「enzyme rich(エンザイム・リッチ)」、すなわち「酵素をたくさん持つ」微生物という説明をしているそうです。ひとことで言うにはベストワードですよね。それがあるからたんぱく質を分解してアミノ酸などの美味しい成分をたくさん生み出すのですから。
もちろん、一般の方には麹のメカニズムや麹菌って何なの、となると、ワークショップが必要なぐらい説明が必要だと思います。お話ししたように、英国のワインとスピリッツの教育プログラム「WSET」では、3年前から学習テキストに焼酎の項目が加わり、これからの普及にも期待しています。
焼酎についての説明は、我々もかなり突っ込んだ説明ができます。ただ芋焼酎や米焼酎について説明をするのはちょっと無理がある。そこはやっぱり芋原料の焼酎メーカー、米原料の焼酎メーカーにやってもらった方が間違いなくいい。このように焼酎業界みんなが、各々が持っているものをしっかり出して、焼酎というカテゴリーを認知してもらうことが大切なことだと考えています。これはうちだけでは無理なので、他のメーカーと一緒に「適切な団体戦」が必要だなとも考えています。
PROFILE
西和紀(にし・かずのり)
三和酒類株式会社 代表取締役副社長
1971(昭和46)年、東京生まれ。1996(平成8)年3月、和光大学人文学部人間関係学科卒業。海外バイクの部品販売会社に勤務。2001(平成13)年4月、三和酒類株式会社入社。第二製造で製造現場勤務を経て、2003(平成15)年8月から営業に異動。2008(平成20)年8月、営業部営業課課長。2009(平成21)年10月、代表取締役営業部長となり海外事業も担当。その後、代表取締役常務、代表取締役専務を経て、2017(平成29)年10月、代表取締役副社長就任。妻・長男・長女の4人家族。趣味は大学時代から続くバイクツーリングと、3年前から始めた居合道。