プロラグビー選手 具智元さん

大分ゆかりのあの人 第16回【後編】ラグビーをやめたら、
また九州に戻りたいなって
思っています

プロラグビー選手具 智元

ラグビーワールドカップ2019日本大会、歴史的勝利をあげたアイルランド代表(当時世界ランキング1位)との一戦で、スクラムで相手を圧倒した際の具智元(グジウォン)選手の雄叫びは、いつまでも記憶に残る名場面のひとつです。大分県で中学・高校生時代を過ごし、現在、コベルコ神戸スティーラーズ(NTTジャパンラグビー リーグワン*1ディビジョン1)に所属し、プロラグビー選手として活躍しています。インタビュー後編では、2023-24シーズンの振り返りと今後の活動について伺いました。 前編はこちら 文:藤本幸俊 / 写真:三井公一

*1 ジャパンラグビー リーグワン:2022年1月に開幕した日本ラグビー最高峰のリーグ。一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン(JRLO)が主催。チームの強さ順に、ディビジョン1(D1、12チーム)、ディビジョン2(D2、8チーム)、ディビジョン3(D3、6チーム)と分かれ、勝敗を競う。

コベルコ神戸スティーラーズでの3年目のシーズンを終えて

――具選手が所属しているコベルコ神戸スティーラーズは、5位という成績で2023-24シーズンを終えました。ファンの間では、4位以内でリーグ戦を終えてプレーオフトーナメントに進むという期待も大きかったと思います。具選手としては、どのような手応えを感じたシーズンでしたか。

自分がこのチームに加入して3年目。1トライ差とか僅差の試合が多くて、あと一歩というところでした。本当に優勝できるチームだったと思うので、悔しい気持ちがありますね。

――リーグワンを観戦していると、各チームの力が拮抗していて、ファンとしては楽しいゲームが多いんですけど、プレーする選手は大変ですよね。

はい、リーグワンのディビジョン1だと、もうどのチームも強いので、毎試合終えるごとに、体のダメージもすごいありますね。

プロラグビー選手 具智元さん

――昨シーズンは、オールブラックス(ニュージーランド代表)のアーディ・サベア選手が在籍して、ファンの注目も集まりましたね。

サベア選手は人間的にも尊敬できるいい人で、ラグビー選手としてプレーを見ていても、すごい人だなと思いました。試合の最初からすごいのは、ある意味で当たり前ですけど、そのパフォーマンスを80分間ずっと継続できるところがとてもすごい。

みんながバテている時にも、ゲーム開始時のフレッシュな時と同じ質でプレーできるから、相手よりももう1歩出られるし、ボールを持って前に運ぶ時も、もう1歩早く出られる。そういうところのすごさを感じました。体力、フィットネスのレベルが高いので、プレーに余裕があるんですよ。

――来シーズン(2024-25)は、スコットランド代表のフッカー、ジョージ・ターナー選手が加入すると聞いています。どんなところに期待していますか。

自分にとって、チームメイトとして外国人のフッカーとプレーするのは初めてのことになります。(スクラムの際にスクラムハーフが投げ入れたボールを脚で掻き出す役割の)フッカーは、プロップである自分に一番関係があるポジションです。特にスクラムについては、楽しみでもあり少し心配でもありますが、基本的にはワクワクしています。

スクラム時のFW(フォワード)ポジション名と背番号。ラグビーは背番号でポジションが決まっている。具選手は3番右プロップスクラム時のFW(フォワード)ポジション名と背番号。ラグビーは背番号でポジションが決まっている。具選手は3番右プロップ

コミュニケーションの一環として、お酒を楽しむように

――文化や言葉が違う人たちが集まってチームプレーを求められる中で、コミュニケーションを取る上で気を配ったり気をつけているところなどありますか。

コミュニケーションでは、それほど大きな難しさはないと思います。みんな、チームとしてのプレーと行動を第一に考えているので。コベルコ神戸スティーラーズではすごくいい雰囲気でやれています。

プロラグビー選手 具智元さん

――コベルコ神戸スティーラーズは、具選手の他にも韓国の選手、あるいは韓国にルーツをもつ選手がいらっしゃいます。具選手は韓国ドラマが好きと伺っていますが、グラウンド外ではドラマの話などするのでしょうか。

韓国のドラマの話をすることもありますし、韓国料理を食べに行くこともありますね。昨シーズンで退団されましたが、チャンさん(張碩煥/チャンソクファン選手)とはよく一緒にご飯を食べに行ってました。あと、スンシン(李承信/リスンシン選手、日本代表)とは彼の家族と一緒にご飯を食べたりしてます。この前もスンシンのお兄さん(李承爀/リスンヒョ選手、2024-25シーズンから三菱重工相模原ダイナボアーズ所属の選手)と食事をしました。

――お酒は飲みますか。お酒にお強いイメージがあります。

自分から積極的に飲むっていうことはあんまりなかったんですけど、試合後とか、シーズンが終わって、飲みながらチームメイトとコミュニケーションを取るのは大事だなと思うようになったので、最近はちょっと飲むようになりました。

飲む時は意外と飲めます(笑)。1杯目は必ずビールで、2杯目からはハイボールか焼酎を飲んでます。

力の勝負、ぶつかり合い、スピード。全部見られるのがラグビーの魅力

――チームメイトの李承信選手は、ラグビーワールドカップ2023フランス大会に出場。今年の日本代表にも選ばれ活躍しています。具選手としても、また日本代表にワールドカップに、という思いはありますか。

今年は軽い手術をしたり、コンディションを整えている状況なので、今はしっかり休んで、しっかり体をつくって、フレッシュな状態に戻して、ということを考えています。そしてまずはコベルコ神戸スティーラーズでしっかりプレーして優勝して、というのが目標です。その結果として、代表に選ばれたらいいなとは思っていますけれども。

プロラグビー選手 具智元さん© KOBE STEEL, LTD.
プロラグビー選手 具智元さん© KOBE STEEL, LTD.

――具選手は高校生の頃からトッププレーヤーとして活躍されてきていますが、そんな具選手からみたラグビーの面白さ、魅力って何でしょうか。

ラグビーは15人でプレーするスポーツです。体が大きな選手、身長が高い選手、体が細い選手、身長が低い選手と、いろいろな体型の選手がいます。それぞれポジションごとに役割があって、全員が同じ仕事をすればいいのではないというところに難しさもあるのですが、試合に向けてハードワークを重ねて準備をして、それらが全部うまくいって試合に勝った時には、ものすごくうれしいですね。

スクラムみたいな力と力の勝負もあれば、激しいぶつかり合いもある。スピードの勝負もあるといった、スポーツの要素全部を見られるのがラグビーなんですね。それが魅力やと思います。

その中で自分は3番・右プロップがポジションで、特にスクラムでのプレーで評価されるところが大きいと思っています。

プロップがボールを持って30m、40m前に出て行くのは難しいと思うんですけど、スクラムで相手を上回って相手のペナルティーを取ることができれば、そこからペナルティーキックで30m、40m前に一気に前進できます。逆にスクラムで負けてしまったら、エリアを大きく下げられてしまう。チームに迷惑をかけてしまうので、自分の役割としてそこはすごく意識しています。

初めてケガに悩まされない納得のシーズンにできた

ラグビー選手 具智元さん

――ラグビーはケガをしやすいスポーツでもあります。ご自身で気をつけているのはどんなことでしょうか。

自分は社会人になってから、ずっとケガを繰り返してきました。練習で無理をし過ぎてケガをして試合に出られないっていうのが今までのパターンでした。去年からは、練習であまり無理をし過ぎないということを意識するようにしたのです。

「あ、これ以上やったらケガしちゃうかな」といったことを、自分で自分の体に感じながら。結局、練習で追い込むことよりも、試合に出て貢献することが大事だということに気がついたというか。その結果、神戸に来て3シーズンを過ごしましたが、昨シーズン初めて、1試合を除いて全試合に出場できました*2*2 第9節の試合で脳振とうの恐れがあるということで途中交替。10節は欠場、11節には復帰した。

――高校生の頃から練習熱心で、練習時間もすごく長くて、その長時間の練習の量をこなすことで不安を解消してきたわけですね。

はい。大学生の時もそうです。高校から大学まで7年間ずっとそういう生活をしてきました。そして社会人になって初めて肉離れを経験しました。以降もそういうケガを繰り返してきて、去年からようやく、その悪循環を改めることができたというわけです。

――高校・大学までは無理をしてもケガをしなかった、体が丈夫だった、ということなのでしょうか。

どうですかね。その頃は肉離れを起こしていても肉離れだと分からなかったのかもしれません。足を引きずって走っていたこともありましたから。そんな時でもちょっと調子悪いなって思うぐらいでした(笑)。

神戸に来て1年目の時は、首の手術をしました。大きいケガでしたから、戻れるかなっていう不安はありました。でも原因が分かっていたし、しっかり治したら復帰できるだろうと考えて、ストレスはそれほど感じませんでした。

しかし2年目は、試合のメンバーに入って2日前に肉離れになることが3回、4回と繰り返し起こってしまって、その時のストレスはすごかったです。精神的にもしんどかった。だから3年目はそういうケガを絶対に繰り返したくないっていう、強い思いがあったのです。

取材を行ったコベルコ神戸スティーラーズの「スティーラーズ記念館」(神戸市東灘区)
取材を行ったコベルコ神戸スティーラーズの「スティーラーズ記念館」(神戸市東灘区)
取材を行ったコベルコ神戸スティーラーズの「スティーラーズ記念館」(神戸市東灘区)

――そのような経緯から、次のシーズンはすごく楽しみですね。ケガなくいけそうっていう手応えがあるのでは。

はい、もう今しっかりこのオフの期間、メンタルもゆっくりする時間をもらえていますし、ケガをしないような体を作る時間ももらえたので、本当に次のシーズンが楽しみです。

目標はリーグワンでの優勝と、あと全試合出場です。昨シーズンは先ほどお話ししたとおり、1試合出られなかったので、来シーズンは本当に全試合に出て優勝という、初めての経験をしたい、そう思っています。

ラグビーをやめたら、また九州に帰りたい

――現役を退いてからのプランを差し支えなければ教えてください。

ラグビーをやめたら、いずれは九州に帰りたいなっていうのはあります。それは福岡かもしれないし大分かもしれませんが。今でも合宿などの機会に九州に行くと、気持ちが落ち着くので。やっぱり九州に戻りたいなっていうのはあります。

食べ物も正直言ってどの店に入っても美味しいし、味もすごい好きですし。空港から宿泊地のホテルまで向かう道もなんか落ち着くんですよね。そういう雰囲気が好きです。

両親は韓国に住んでいますが、自分は中学3年から日本に住んでいるので、韓国で暮らした年月と日本で暮らした年月が、もう半分半分ぐらい。両親は韓国で暮らして、自分は九州で暮らして行き来ができたらベストかなって思います(具選手は2019年に日本国籍を取得済み)。

前編はこちら

ラグビー選手 具智元さん具選手が持つのは「いいちこ」発売40周年にラグビーボール型ボトルに詰めた「iichiko 40」(数量限定)
具智元(グジウォン)

PROFILE

具智元(グジウォン)

1994年、韓国・ソウル市生まれ。183cm・117kg。ポジションは右プロップ。日本のプロラグビー選手としてコベルコ神戸スティーラーズ(NTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン1)に所属。ラグビー日本代表として2019年と2023年のラグビーワールドカップに出場、日本代表キャップ(代表としての出場試合数)は29。中学1年生の時にニュージーランドに移住。さらに中学2年時に日本にラグビー留学。中学3年生から大分県佐伯市に移住し、日本文理大学附属高校を卒業。拓殖大学に進み、トップリーグ(当時)のHonda HEATに加入。ジャパンラグビー リーグワン発足時に、コベルコ神戸スティーラーズに移籍。2019年、日本国籍を取得。柔和なルックスと性格から、ファンからは「グーくん」の愛称で呼ばれる。父の具東春(グドンチュン)さんは元韓国代表プロップ、兄の具智允(グジユン)さんも元Honda HEATの選手で、現在は格闘家。