料理研究家・管理栄養士エダ ジュン
文:エダジュン / 写真:木村文平
僕が料理研究家として注目されたのは、パクチーを使ったエスニック料理からでした。もともとアジアの料理……特にタイ料理が大好きで、毎日食べても飽きません。「辛い」「酸っぱい」「甘い」という味のメリハリがあることが、大きな理由でしょう。
その一方で、日本の食文化に通じるものがあるということも事実です。魚介を煮つけたり、揚げたりというシンプルかつ豊かな食べ方のバリエーションが似ています。それに、生野菜を食べるのも日本と同じ。しょうが、わさび、大葉といった日本の薬味が、タイではハーブや唐辛子に代わります。ヨーロッパ料理のようにバターをたくさん使うわけではないので、さっぱりいただけます。
麺や米の食べ方も通じるものがあります。ああ、タイに行きたくなってきました。年に1度は行くようにしているんですが。これまでのタイでのグルメ紀行は、僕のYouTubeにもアップしていますので、ぜひご覧くださいね。
タイと日本。発酵食品も似たものがあります。例えば、日本の醤油のように使うのがタイのナンプラー。タイ語でナムは液体、プラーは魚の意味だそうです。イワシのような小さい海水魚を発酵させてつくるようですが本当にたくさん種類があります。
塩味の強さや香りで好き嫌いが分かれるでしょう。僕は常時8本ぐらいを使い分けていますが、一番好きなのはこの2本。右の黒い瓶のものはタイでしか買えませんが、左の魚の絵のメガシェフのものは日本でも買えます。砂糖が入っていてまろやかで、初めて使う人にもおすすめです。
ナンプラーを使うコツは、酸味や甘味を足すこと。特に香りに慣れないという方は、レモン、ライム、かぼすやすだちなど、柑橘類の絞り汁を合わせると軽やかになります。
うまみが濃いので、水に溶かすだけでスープになるくらいです。味噌汁と合わせるのも美味しいですし、150ccの水に小さじ2杯のナンプラーでめんつゆ代わりにもなります。
ときどき「タイ料理を作ろうと思ってナンプラーを買ったけど、余っちゃって」という方がいらっしゃいますが、だし醤油代わりに和食にもどんどん使っていただけたらと思います。
今回は、このタイの発酵調味料、ナンプラーを使った料理を3品ご紹介しています。
まずは「ごぼうとにんじんのナンプラーきんぴら」。砂糖を入れることでまろやかになり、ナンプラーの良さが引き立つ一品。ごぼう、にんじんの比率は4:1か5:1くらいがいいですね。和食の定番もナンプラーを入れると、ひと味違う仕上がりになります。
「あさりとエリンギのナンプラーバター酒蒸し」は、フライパンがまだ冷たいところからエリンギとあさりを一緒に入れることで相乗効果が出て、どちらの素材のうまみもアップします。バジルはたっぷりと。予熱でさっと火を通すだけで、何ともいい香りになります。バジルの代わりに大葉やディルなど、好きなハーブを使ってもOKです。このナンプラーとバターの組み合わせは、パスタにも応用できます。ナンプラーとバター、エスニックと洋風のマリアージュがクセになる味です。
最後に「パクチー団子と白菜のナンプラートマト鍋」を。トマトのグルタミン酸とナンプラーが組み合わさると、素晴らしいだしになります。肉団子からもだしが出ますから、あえて鶏がらスープの素など入れる必要はありません。トマトをだしとして鍋のスープに使うのがポイントです。
どの料理も、ナンプラーの発酵のうまみが最高に味わえると思います。ぜひ、試してみてください!
ごぼう・・・2本(200g)
にんじん・・・1/3本(50g)
鷹の爪(種を取る、輪切り)・・・1本
ごま油・・・大さじ1
酒・・・大さじ2
ナンプラー・・・大さじ1と1/2
砂糖・・・小さじ2
あさり(砂抜き済)・・・300g
エリンギ(乱切り)・・・1パック(100g)
バジルの葉っぱ(大葉で代用可)・・・10枚
酒・・・大さじ2
ナンプラー・・・小さじ2
バター・・・10g
あさりをバットに入れて、水500ml、塩15gを注ぎ入れ、新聞紙などをかぶせて3時間ほど砂抜きをする。3時間後に流水で殻と殻をこすって洗う。
白菜(ひと口大)・・・100g
豆苗(根の部分を切る)・・・1パック(正味50g)
〈パクチー団子の具材〉
鶏ももひき肉・・・300g
溶きたまご・・・1個分
パクチー(みじん切り)・・・1束(20g)
ナンプラー・・・小さじ2
しょうが(すりおろし)・・・小さじ2
片栗粉・・・大さじ1
〈鍋のスープ〉
水・・・800ml
トマト(角切り)・・・1個(150g)
ナンプラー・・・大さじ4
レモン汁・・・大さじ2
鷹の爪(種を取る、輪切り)・・・1本
PROFILE
エダジュン
料理研究家・管理栄養士。1984年、東京生まれ。管理栄養士取得後、株式会社スマイルズ入社。SoupStockTokyoの本部業務に携わり、2013年に料理研究家として独立。「パクチーボーイ」の名義でも活動中。お手軽アジアごはんや、パクチーを使ったレシピが得意。著書に「フライパンひとつで!のっけ弁当」(学研プラス)、「アジア料理をカレーにしたら?」(文化出版局)、「野菜たっぷり具だくさんの主役スープ150」(誠文堂新光社)など。
●料理研究家としてのモットー
「料理にやっちゃいけないことはない」という気持ちを大切に、固定概念に捉われず、ワクワクする料理・レシピをお届けすることを心がけています。