料理家井澤 由美子
文・写真:井澤由美子
柔らかな春キャベツが出回っています。
「乳酸キャベツ」は、シュークルートやザワークラウトと同じように発酵したキャベツの漬物で、井澤家の呼び名です。キャベツの葉にもともとついている乳酸菌を発酵させたもの。なんということのない漬物ですが、栄養価が高く、作り方がごく簡単なので漬物作りが苦手な方にも喜ばれます。
ビタミンC、ビタミンU、ビタミンK、などを含み、胃腸に優しいキャベツは、寒暖差で自律神経が乱れがちな春におすすめの野菜です。
発酵食は単体で口にしても腸には届きにくいのですが、食物繊維が運んでくれることで腸の働きが整いやすくなります。乳酸キャベツは乳酸菌を多く含む発酵食でありながら、食物繊維、ビタミン類などが豊富。これ一つで合理的に栄養素が賄える優れた漬物で、一番シンプルな発酵食だと思います。ギャバ*も豊富なので、毎日食べることで血圧を下げるなどリラックス効果があります。胃腸にもメンタルにも良いようです。*ギャバ(GABA):Gamma-AminoButyric Acid(γ-アミノ酪酸)の略。植物に含まれるアミノ酸の一種で、人間の体内でも合成される。体内では特に脳に存在しており、脳の興奮を低減させ、ストレスや緊張を和らげる働きがあると言われる。
冷蔵庫にあれば「何か一品ほしい」をすぐに叶えてくれますし、ダイエットを常に意識する世代の私の娘も、これは毎日食べています。適度な酸味を持つ冷たいサラダの感覚で、食べると胃がスッキリし、体の疲れが取れるそうで、良い実感があるのでしょう。キャベツに含まれるビタミンB群は中性脂肪をコントロールしてくれるので、エネルギー代謝もアップしそうです。
基本材料はキャベツ、粗塩、きび砂糖の3つ。細切りキャベツ約1kg、粗塩小さじ4、きび砂糖小さじ2をなじませ、重石をして常温で2日たったら清潔な保存容器に入れて冷蔵庫へ。お好みで唐辛子や粒胡椒(つぶこしょう)、スパイスなどを加えてもよいです。私はたっぷりの山椒(さんしょう)の塩漬けや針生姜(はりしょうが)を加えた和風の乳酸キャベツを常備しています。
乳酸キャベツを作るには、まず新鮮なキャベツを選んでください。野菜そのもののパワーが活きますから。冷蔵庫で1カ月くらいは保存可能ですが、キャベツ1玉で作って、2~3週間で食べ切るサイクルが作りやすくておすすめです。
上手く作るコツは、粗塩ときび砂糖を加えて袋の上からまんべんなくよく揉み込むこと。しかし、発酵と腐敗は紙一重。嫌な臭いがしたりカビが生えてきたら、漬物は全て失敗です。そういう時は潔く捨てましょう。清潔な手で作り、発酵させた後は清潔な保存容器に保存します。
いったんちゃんと発酵した乳酸キャベツは、その後、日に日に味わいを増していきます。そのまま和え物にするのはもちろん、火を通してもまた美味しいもの。乳酸菌は高温で死滅すると言われていますが、死滅しても善玉菌のエサになるので無駄にはなりません。
味も良く、体にも良い。それが、発酵食品の素晴らしさです。煮込みにも炒め物にも、和洋中さまざまなジャンルの料理に使えます。
ぜひこの春は冷蔵庫に乳酸キャベツを常備してはいかがでしょう。
基本の乳酸キャベツを好きなだけ器に盛って、削りチーズ、オリーブオイル、胡椒を好みの量ふりかけて、いただく。
PROFILE
井澤由美子(いざわ・ゆみこ)
料理家。調理師・国際中医薬膳師・国際中医師*。海外雑誌「マーサ・スチュワート」の日本版編集部、広告制作部より独立。体を健やかに保つ発酵食や、薬膳、保存食作りをライフワークとし、季節の素材で美味しく健康的なレシピを提案している。レモン塩や乳酸キャベツのブームの火付け役としても知られ、手作りの良さを広めている。NHK「きょうの料理」、「あさイチ」などの料理番組のほか、商品開発や雑誌、講演など活動は多岐にわたる。著書に「『ストウブ』でもてなしごはん&毎日おかず」、「痩せる!きれいになる!病気にならない!乳酸キャベツ健康レシピ」、「体がよろこぶお漬け物:乳酸発酵の力で、体の中から美しく」など多数。* 国際中医薬膳師・国際中医師:「国際中医薬膳師」は中国政府が直轄する中国中医薬研究促進会が、能力認定試験を行い、認定証書の発行をしている資格。「国際中医師」は中国の伝統医学、中医学を中国国内だけではなく世界に普及させるために設けられた資格。中国政府の外郭団体である世界中医薬学会連合会が主催する国際中医師試験に合格する必要がある。