料理家井澤 由美子
文・写真:井澤由美子
4~5年前、東北地方へ酒蔵巡りをする仕事がありました。寒さの厳しいなかで造られる日本酒は、また独特の味わいがあります。取材の空き時間に、ふとそこで働く杜氏(とうじ)や蔵人の方たちがすすめてくれたのが、酒かすコーヒー。できたての酒かすをコーヒーに混ぜていただくものでした。
酒かすは体を温める効果があり、蔵人の方たちの間では、二日酔いにも有効だと言われていました。ただ、できたての新しい酒かすは当然ながらそのままではコーヒーと馴染まず、いまひとつうま味を感じられませんでした。
とはいえ、雪景色の中で蔵人の方たちといただく、その雰囲気は格別なものでした。
東京に戻り、その雰囲気を思い出しながら、私はもう少し熟成された酒かすを使って、コーヒーを作ってみました。すると、思ったとおりうまく馴染んで、口当たりがやさしくて美味しいホットドリンクに。
今は品揃えが多い大きなスーパーであれば、熟成した練り状の酒かす(練りかす)も手に入れることができます。また自著の「まいにち食薬養生帖」(リトル・モア)にも書いていますが、溶けにくくて使いづらい板状の酒かす(板かす)も練って柔らかくすることができます。
レンジで加熱できる清潔な容器に100gの板状の酒かすを入れ、本みりん60mlを振って600Wのレンジで40秒加熱し、柔らかくなったらへらなどでよく練れば、板かすを練りかすにすることができ、常温で熟成できるのです。これは肉や魚、野菜を漬けたり、酒かす汁や鍋にも簡単に使えておすすめです。
もちろん、今回ご紹介する酒かすコーヒーにも簡単に使えます。酒かすと黒糖やきび砂糖を入れ、小鍋でコーヒーをとろとろに温めます。煮詰めるほどにぽってりととろみがつき、火を入れることでアルコールも飛ぶので、仕事の合間の休憩にもよいものです。アレンジで、シナモンパウダーを入れると、さらに体も温まり、おしゃれな感じに。ブレイクタイムに、これをビスケットといただくのが私は好きです。
体を温めたい冬の料理に、酒かすは欠かせません。今回は三平汁をご紹介しますが、酒かすと白味噌(しろみそ)、山椒(さんしょう)、生姜(しょうが)などをグツグツ煮たものはまさに寒い季節ならではの味。中医学で旬の「養生三宝(ようじょうさんぽう)」と言われる豆腐、大根、白菜と一緒にいただくのもおすすめです。
酒を搾った後の酒かすには、糖質、たんぱく質、食物繊維、酵母がたっぷり含まれています。また話題のレジスタントプロテイン*1を含むと言われており、健康的にコレステロール値を下げたり、腸内環境を整えるなど、さまざまな効果が期待できます。*1 レジスタントプロテイン:米、酒かすなどに含まれる、難消化性たんぱく質のこと。通常たんぱく質は体内に入ると胃で分解されるが、レジスタントプロテインは分解されず小腸へ移動し、腸内環境を整えるほか、健康的にコレステロール値を下げて、健康につながる免疫力を整えるなどさまざまな効果が期待できる。
また経験的にも知られていることですが、水分蒸発を防ぐ成分や、肌を若々しく保つビタミンB群、シミ予防に良いといわれるアルブチンなども含まれています。美肌にうれしい成分が入っているのですね。
さあ、酒かすを料理にどんどん取り入れてみましょう!*2*2 酒かすにはアルコール成分が含まれています。運転時などや、お子様、お酒に弱い方、妊娠・授乳期の方はご注意ください。
PROFILE
井澤由美子(いざわ・ゆみこ)
料理家。調理師・国際中医薬膳師・国際中医師*。海外雑誌「マーサ・スチュワート」の日本版編集部、広告制作部より独立。体を健やかに保つ発酵食や、薬膳、保存食作りをライフワークとし、季節の素材で美味しく健康的なレシピを提案している。レモン塩や乳酸キャベツのブームの火付け役としても知られ、手作りの良さを広めている。NHK「きょうの料理」、「あさイチ」などの料理番組のほか、商品開発や雑誌、講演など活動は多岐にわたる。著書に「『ストウブ』でもてなしごはん&毎日おかず」、「痩せる!きれいになる!病気にならない!乳酸キャベツ健康レシピ」、「体がよろこぶお漬け物:乳酸発酵の力で、体の中から美しく」など多数。* 国際中医薬膳師・国際中医師:「国際中医薬膳師」は中国政府が直轄する中国中医薬研究促進会が、能力認定試験を行い、認定証書の発行をしている資格。「国際中医師」は中国の伝統医学、中医学を中国国内だけではなく世界に普及させるために設けられた資格。中国政府の外郭団体である世界中医薬学会連合会が主催する国際中医師試験に合格する必要がある。