井澤由美子「三平汁とコーヒー。栄養たっぷりの酒かすで温まるレシピ」

はじめての発酵食レシピ Vol.08三平汁とコーヒー。栄養たっぷりの酒かすで温まるレシピ

料理家井澤 由美子

発酵食品は、美味しさと健やかさへの栄養素を両方兼ね備えた頼もしいもの。「はじめての発酵食レシピ」第8回は、その代表的なアイテムの1つともいえる「酒かす」をピックアップ。北海道の郷土料理である三平汁(さんぺいじる)や酒かすを使ったコーヒーなど、簡単で滋味深い食べ方をご紹介します。

文・写真:井澤由美子

酒蔵で杜氏や蔵人の方たちがふるまってくれた思い出の味

4~5年前、東北地方へ酒蔵巡りをする仕事がありました。寒さの厳しいなかで造られる日本酒は、また独特の味わいがあります。取材の空き時間に、ふとそこで働く杜氏(とうじ)や蔵人の方たちがすすめてくれたのが、酒かすコーヒー。できたての酒かすをコーヒーに混ぜていただくものでした。

酒かすは体を温める効果があり、蔵人の方たちの間では、二日酔いにも有効だと言われていました。ただ、できたての新しい酒かすは当然ながらそのままではコーヒーと馴染まず、いまひとつうま味を感じられませんでした。

とはいえ、雪景色の中で蔵人の方たちといただく、その雰囲気は格別なものでした。

使いやすく熟成もする、酒かすの常備のしかた

東京に戻り、その雰囲気を思い出しながら、私はもう少し熟成された酒かすを使って、コーヒーを作ってみました。すると、思ったとおりうまく馴染んで、口当たりがやさしくて美味しいホットドリンクに。

今は品揃えが多い大きなスーパーであれば、熟成した練り状の酒かす(練りかす)も手に入れることができます。また自著の「まいにち食薬養生帖」(リトル・モア)にも書いていますが、溶けにくくて使いづらい板状の酒かす(板かす)も練って柔らかくすることができます。

練りかす(左)と板かす練りかす(左)と板かす

レンジで加熱できる清潔な容器に100gの板状の酒かすを入れ、本みりん60mlを振って600Wのレンジで40秒加熱し、柔らかくなったらへらなどでよく練れば、板かすを練りかすにすることができ、常温で熟成できるのです。これは肉や魚、野菜を漬けたり、酒かす汁や鍋にも簡単に使えておすすめです。

もちろん、今回ご紹介する酒かすコーヒーにも簡単に使えます。酒かすと黒糖やきび砂糖を入れ、小鍋でコーヒーをとろとろに温めます。煮詰めるほどにぽってりととろみがつき、火を入れることでアルコールも飛ぶので、仕事の合間の休憩にもよいものです。アレンジで、シナモンパウダーを入れると、さらに体も温まり、おしゃれな感じに。ブレイクタイムに、これをビスケットといただくのが私は好きです。

話題のレジスタントプロテインも含有。栄養たっぷりの酒かす

体を温めたい冬の料理に、酒かすは欠かせません。今回は三平汁をご紹介しますが、酒かすと白味噌(しろみそ)、山椒(さんしょう)、生姜(しょうが)などをグツグツ煮たものはまさに寒い季節ならではの味。中医学で旬の「養生三宝(ようじょうさんぽう)」と言われる豆腐、大根、白菜と一緒にいただくのもおすすめです。

酒を搾った後の酒かすには、糖質、たんぱく質、食物繊維、酵母がたっぷり含まれています。また話題のレジスタントプロテイン*1を含むと言われており、健康的にコレステロール値を下げたり、腸内環境を整えるなど、さまざまな効果が期待できます。*1 レジスタントプロテイン:米、酒かすなどに含まれる、難消化性たんぱく質のこと。通常たんぱく質は体内に入ると胃で分解されるが、レジスタントプロテインは分解されず小腸へ移動し、腸内環境を整えるほか、健康的にコレステロール値を下げて、健康につながる免疫力を整えるなどさまざまな効果が期待できる。

また経験的にも知られていることですが、水分蒸発を防ぐ成分や、肌を若々しく保つビタミンB群、シミ予防に良いといわれるアルブチンなども含まれています。美肌にうれしい成分が入っているのですね。

さあ、酒かすを料理にどんどん取り入れてみましょう!*2*2 酒かすにはアルコール成分が含まれています。運転時などや、お子様、お酒に弱い方、妊娠・授乳期の方はご注意ください。

発酵食RECIPE

酒かす入り三平汁

酒かす入り三平汁

▼材料/2人分
酒かす(練り状のもの)
大さじ2~3
ブリの切り身
2切れ
大根
250g
セリ
50g
長ネギ
1/2本
柚子の皮
適量
粗塩
小さじ1/3
カップ3
酒かす入り三平汁の材料
▼作り方
  1. ブリは全体に塩と酒(分量外各少々)を適宜ふり、そのまま10分おいてざっと洗って食べやすく切る。大根は皮をむいて半月形に切る。セリは根をよく洗い4cmに切る。長ネギは斜め薄切りにする。
  2. 鍋に1で切った大根と、水3カップを中火にかけ、大根が透明になるまで5~6分フタをして茹でる。
  3. 2に酒かすを溶き、1のブリと長ネギ、セリの根、粗塩を加えて2~3分ほど煮る。ブリに火が通ったらセリの葉の部分を加え、柚子の皮を散らす。好みで柚子果汁を搾っていただく。
2に酒かすを溶き、1のブリと長ネギ、セリの根、粗塩を加えて2~3分ほど煮る。
黒糖酒かすコーヒー

黒糖酒かすコーヒー

▼材料/2人分
酒かす(練り状のもの)
大さじ1~2
コーヒー
300cc
黒糖
好みの量
黒糖酒かすコーヒーの材料
▼作り方
  1. 小鍋にコーヒーを入れ、酒かす、黒糖を加えて中弱火で3~5分、好みのとろみになるまで煮る。
好みのとろみになるまで煮る
井澤由美子(いざわ・ゆみこ)

PROFILE

井澤由美子(いざわ・ゆみこ)

料理家。調理師・国際中医薬膳師・国際中医師*。海外雑誌「マーサ・スチュワート」の日本版編集部、広告制作部より独立。体を健やかに保つ発酵食や、薬膳、保存食作りをライフワークとし、季節の素材で美味しく健康的なレシピを提案している。レモン塩や乳酸キャベツのブームの火付け役としても知られ、手作りの良さを広めている。NHK「きょうの料理」、「あさイチ」などの料理番組のほか、商品開発や雑誌、講演など活動は多岐にわたる。著書に「『ストウブ』でもてなしごはん&毎日おかず」、「痩せる!きれいになる!病気にならない!乳酸キャベツ健康レシピ」、「体がよろこぶお漬け物:乳酸発酵の力で、体の中から美しく」など多数。* 国際中医薬膳師・国際中医師:「国際中医薬膳師」は中国政府が直轄する中国中医薬研究促進会が、能力認定試験を行い、認定証書の発行をしている資格。「国際中医師」は中国の伝統医学、中医学を中国国内だけではなく世界に普及させるために設けられた資格。中国政府の外郭団体である世界中医薬学会連合会が主催する国際中医師試験に合格する必要がある。