井澤由美子「炙った鰹や豆腐にぴったり。こくとうまみを凝縮した納豆醬」

はじめての発酵食レシピ Vol.06炙った鰹や豆腐にぴったり。
こくとうまみを凝縮した納豆醬

料理家井澤 由美子

さまざまな食材を発酵によって美味しく、体にも良いものに。誰でも簡単にできる「はじめての発酵食レシピ」第6回は、料理家で調理師・国際中医薬膳師・国際中医師の資格を持つ井澤由美子さんに、究極の発酵食品「納豆」を使ったレシピをご紹介してもらいました。

文・写真:井澤由美子

納豆は無敵の美容食?

あるとき乗ったタクシーの運転手さんがかなり高齢の女性でした。しかし頬のあたりをよくよく見ると、すごくきれいな肌をされていたんです。驚いて思わず「何を食べているんですか」と尋ねてしまいました。

すると、「納豆を1日6パック*1食べているのよ」という答えが。もちろん、納豆の成分が体に合う合わないという個人差はあると思いますが、合えばそんなにも効果が出るものなのか、と驚きました。化学的に作った美容食より、そのままの納豆が肌に良い理由は? 上質な植物性たんぱく質、ビタミンB6、納豆菌が作る酵素のナットウキナーゼ。納豆の何がどう良くて美肌と健康につながるのか、調べてみました。*1 個人差があります。一般的には1日に食べる納豆の量は1~2パックが適切とされています。食べ過ぎには注意しましょう。

いろんな納豆

腸内環境を整えることが美肌にもつながる

今、たんぱく質の中身が見直されています。納豆に含まれる植物性たんぱく質は、動物性たんぱく質に比べて、腸を汚さず、きれいに保ってくれるという特長があります。加えて、納豆の発酵成分が腸内環境をよりよく整えてくれるのです。

大豆が発酵して納豆になると、肌を作るビタミンBは約6倍、シミ、シワ予防に効果的とされるレシチンは約1.5倍になるそうです。さらにごま油やオリーブオイルを加えると、便秘改善にも効果を発揮します。酢と塩を加えて混ぜると、白い泡がもくもくと立ってふわっとした食感も楽しめます。

このときに加える酢は、昆布を浸した「昆布酢」を使えば、うまみも出ますし、昆布のカルシウムが溶け出し、さらに栄養素が加わります。酢は納豆1パックにつき、大さじ1杯ぐらいなら納豆菌も死なず、酢が腸内フローラ*2をさらに咲かせてくれます。刻んだトマトや、きゅうりを混ぜても美味しいです。*2 腸内フローラ:腸内には、約1,000種100兆個とも言われる多種多様な細菌が生息しており、顕微鏡で腸の中を覗くとまるで植物が群生しているお花畑(flora)のように見えることから、腸内フローラと呼ばれるようになった。

昆布酢の材料昆布酢の材料

昆布酢は酢1カップに、カット昆布を3~4枚(30~40g)加えるだけ。酢と昆布のカルシウムを合わせると酢酸カルシウムになり、骨を元気にします。酸味が昆布のうまみで抑えられ、マイルドになり、日常的に使いやすくなります。疲労を回復し、骨を元気にする昆布酢は、キッチンに常備すると便利です。ひと晩おけば完成しますが、月日が経つとさらにうまみが出ます。

昆布が酢から出ないようにして常温で1カ月保存できます。煮干しを浸す「煮干し酢」も同じようにカルシウムが溶け出し、うまみを添えられます。小魚嫌いな人も、これなら大丈夫でしょう。

昆布酢で和えた納豆昆布酢で和えた納豆

納豆を醬にする

「醬(じゃん)」とは、こく、うまみを凝縮したもの、といった意味があります。秋口に向け、納豆に味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)などの調味料を加えたり、おろした玉ねぎと寝かせてさらに発酵させた「納豆醬」を作っておけば、とても便利です。炙った鰹や豆腐にかけたり、鍋のたれや炒め物にしたりと、かなり万能な調味料になるのです。

2週間は冷蔵保存できますし、冷凍も可能です。濃厚なうまみのある納豆醬は、すき焼きなどにもお勧めです。熱々のうどんに卵と混ぜるだけでもオツ。これからの季節の温かいメニューに欠かせないものとなるでしょう。今回はこの納豆醬と、火を入れない真っ白に泡立てた納豆のソースで、スパゲッティを作りました。

発酵食RECIPE

納豆醬

納豆醬

▼材料(作りやすい分量)
納豆(好みのもの)
1パック
豆板醤
小さじ1~2
醤油
小さじ1.5
きび砂糖
小さじ1.5
しょうが
1かけ
玉ねぎ
1/4個
納豆醬材料
▼作り方
  1. しょうがと玉ねぎはすりおろす。
  2. 材料全てをよく混ぜ合わせる。すぐに食べてもよいが冷蔵庫に入れてひと晩置いたほうが熟成する。冷蔵庫で2週間、冷凍で1カ月保存可能。
▼おすすめポイント

納豆はひきわり、小粒、中粒、大粒まで、大きさは好みのもので大丈夫です。豆板醤の代わりにかんずり*3や柚子胡椒(ゆずこしょう)を入れても美味しいです。*3 かんずり:新潟県妙高市に伝わる、唐辛子の発酵香辛調味料。

納豆パスタふわり

納豆パスタふわり

▼材料/2人分
ひきわり納豆
2パック
好みのきのこ
天日干ししたもの適量
スパゲティ(1.7mm)
180g
納豆ソース(A)
卵1個・昆布酢・めんつゆ
各大さじ1
にんにく
1かけ
鷹の爪
2本
ごま油
適量
めんつゆ
大さじ2
刻み海苔
適量
スパゲッティ材料

※付属のタレを加える場合は、めんつゆを足して大さじ1にする

▼作り方
  1. きのこは手で裂いて、ザルに広げ30分以上天日に干す。
  2. スパゲティは表示時間通りに、塩(分量外)ゆでする。Aをふわりとするまでよく混ぜる。
  3. フライパンにごま油、スライスしたにんにくを入れ、香りが出たら手でちぎった鷹の爪(辛味が苦手な人は種を取る)と1のきのこを加えてさっと焼き、ゆで上がったスパゲティとめんつゆ大さじ2を加えて全体をなじませる。
  4. 器に盛ってAの納豆ソースをかけ、海苔を天盛りにする。好みでしそ、三つ葉、わさびや柚子胡椒などを添えても。
納豆ソース
▼おすすめポイント

きのこは手で裂いて天日干しすることで、ビタミンDが増えて骨を強くします。うまみも増えて一石二鳥です。干し加減はお好みで、余ったら冷凍しましょう。今回使用したしめじには、オルニチンがシジミの5倍以上含まれていることは、案外知られていません。きのこの中でもお酒のお供に最適です。

井澤由美子(いざわ・ゆみこ)

PROFILE

井澤由美子(いざわ・ゆみこ)

料理家。調理師・国際中医薬膳師・国際中医師*。海外雑誌「マーサ・スチュワート」の日本版編集部、広告制作部より独立。体を健やかに保つ発酵食や、薬膳、保存食作りをライフワークとし、季節の素材で美味しく健康的なレシピを提案している。レモン塩や乳酸キャベツのブームの火付け役としても知られ、手作りの良さを広めている。NHK「きょうの料理」、「あさイチ」などの料理番組のほか、商品開発や雑誌、講演など活動は多岐にわたる。著書に「『ストウブ』でもてなしごはん&毎日おかず」、「痩せる!きれいになる!病気にならない!乳酸キャベツ健康レシピ」、「体がよろこぶお漬け物:乳酸発酵の力で、体の中から美しく」など多数。* 国際中医薬膳師・国際中医師:「国際中医薬膳師」は中国政府が直轄する中国中医薬研究促進会が、能力認定試験を行い、認定証書の発行をしている資格。「国際中医師」は中国の伝統医学、中医学を中国国内だけではなく世界に普及させるために設けられた資格。中国政府の外郭団体である世界中医薬学会連合会が主催する国際中医師試験に合格する必要がある。