料理研究家・管理栄養士舘野 真知子
文・写真:舘野真知子
料理には発酵調味料が欠かせません。醤油(しょうゆ)、味噌(みそ)、酢、ちょっとぜいたくですが、酒。これに近年では塩麹(しおこうじ)が注目されて、たくさんの家庭で普通に使われるようになりました。
麹に含まれている菌や酵素は、美容と健康をつかさどる腸内環境を整えてくれる働きがあります。美肌や免疫力アップが期待できるのですから、積極的に取り入れたいものです。
しかし、料理を作る際に、取り過ぎたくないのが塩分です。塩麹は、醤油や味噌に使われているくらいの塩分が入っています。そこで私が使い始めたのが、麹が入っているけれど塩分が入っていないあま酒でした。
あま酒麹を使ってつくられるあま酒には、塩麹と同じように旨味(うまみ)成分が含まれています。そして優しい甘味もある。使い始めてみると、意外なほど使い勝手が良く、精製された砂糖を控える人にもおすすめできるのです。
そう、甘味のある旨味。
しかも、その甘味は料理を過度に甘ったるくするほどではありません。さらに良いことに、あま酒の糖は食材の保水効果も高めてくれます。つまりお肉や卵をふんわり柔らかくしてくれるのです。たんぱく質と相性が良いのです。
たとえば今回ご紹介するしょうが焼き。
醤油と砂糖と酒などのよくある味付けは肉の中までは入っていきづらいものです。しかし、あま酒を使うしょうが焼きは、色合いが白っぽい仕上がりになりますが、冷めても柔らかい。噛めば噛むほど味が出るのです。この特長は、お弁当に入れるのにぴったりですね。
卵焼きも、あま酒を入れると、だし巻き卵とはまた違う、ほっこりする味わいになります。ニラ玉にすると、ニラ本来の味を引き立てますし、親子丼の卵にもひとさじ加えるとほんわりと仕上がります。
また、味噌汁にひとさじ入れると、麹の香りがより引き立ち、野菜のえぐみも中和してくれます。味わい深い、上品な感じの味噌汁になるのです。凝った料理は面倒だなという人も、ぜひお味噌汁にひとさじを試していただきたいです。
いつもの晩酌(ばんしゃく)の卵焼きにも、ちょっと隠し味。
「あれ、なんだかいつもと違う」
そんな食卓になりますよ。
料理は科学。
麹のパワーは、試してみるとその仕上がりに笑顔がこぼれます。
PROFILE
舘野真知子(たての・まちこ)
料理研究家・管理栄養士。栃木で8代続く専業農家に生まれる。管理栄養士として病院に勤務後、2001年アイルランドの料理学校「Ballymaloe Cookery School」に留学。2003年に帰国後はフードコーディネーターとしてメディアなどで活動。2009年にはレストラン「六本木農園」の初代シェフを務め、新鮮な素材を生かして都市生活者の健康を意識した料理を提供。日本に伝わる伝統的な食文化を、現代の形に合わせてつないでいくワークショップなども企画・運営する。現在はフリーランスの料理家として、発酵料理をキーワードに、料理の楽しさや食べることの大切さを伝える活動をしている。