料理研究家・管理栄養士舘野 真知子
文・写真:舘野真知子
美味しいだけではなく、健康に良い、なるべく自然なものを作りたい。農家に生まれ、最初は管理栄養士として働き始めたからでしょうか。今、神奈川県の葉山で畑を触りながら料理研究家として仕事をしている私は、常日頃、そんなことを考えています。
「発酵」に興味をもち、それを料理に取り入れていったのも、それが「健康に良い」「免疫力をアップさせる」食材だということからでした。最初は適当に買った「麹キット」のようなもので、麹を作ってみました。味噌や塩麹などを作る元になる「種麹」を作ってみたのです。
さて、見た目はそれらしきものができました。しかし少し口に入れてみると、なんだかなあ、これでいいのかな、と。思い描いていたものとは似て非なるものだったのです。
そこで以前、高知県の仕事でご縁があった、江戸時代創業の高知県の四万十町にある麹屋さん(井上糀店)にお願いして、麹づくりを体験させていただいたことがあります。広くスーパーなどで売っている麹は、ほとんどが工場で作られたものです。しかしここでは、古い室で一から丁寧に作っておられるのです。
麹は菌が大切ですから、部外者が室に入って雑菌がやってくるのは嫌がられるかな、と思いつつお願いしてみると「いいよ。その代わりね、3泊4日で来てね」とのこと。店の7代目は、「地元に貢献する。地元のひとに知ってもらう。」という想いを大切にして仕事をする女性でした。なんと酵母は江戸時代から生きているものだとか。
室の中は真っ暗ですが、何かが生きている気配はします。目が慣れてくると、上の方に神棚が。山に近い室は、蒸すための燃料も山から切ってきた木です。米を収穫し、木を切って作る。まさに自然の恵み、神様の恵みということなのです。
ござの上に、蒸した米をのせ、室に入れて一次発酵し、木桶のお風呂のようなところへ広げてまた発酵させる。布団をかぶせ、それを温めるのに湯たんぽをのせて、熱をもったら薄い木枠に入れてさらに保温する。本当に原始的で手作りなんだと感心しました。
混ぜて終わりではなく、目を離せないかなりの重労働。4日かけてやっと、出来上がりました。
「味をみてください」
こぼれ落としてしまわないように口に運ぶと、なんて美味しい! もう、キットで作ったのと、全然違いました。麹菌の力、安定感。勢いが違うんです。これはきっと、味噌を作っても、甘酒を作っても美味しいに違いない!喜び勇んで持ち帰り、甘酒を作ってみましたら、本当に甘さが立ちました。私が作った麹では、甘味もコクもなく、薄ぼけた味しかしなかったのに。
よくよくお話を聞くと、蒸した米をのせる板の場所によっても味が違ってきて、甘酒用、味噌用と使い分けるのだそうです。本当に菌は生き物。江戸時代からの長生きな菌は、そりゃあ強いはずです。
逆に言えば、しっかりした麹を手に入れ、手間ひまを惜しまずに作りさえすれば、世界のどこででも美味しい味噌や甘酒が作れるようです。私の友人はポートランドで、24年間、美味しい味噌を作り続けています。できれば良い麹を手に入れて、大事に使ってください。
今回は、お野菜を美味しく食べるあま酒マヨネーズ、あま酒ドレッシングのレシピをご紹介します。これはゆでたまごにもとてもよく合います。麹生活の最初の一歩を楽しんでください!
あま酒マヨネーズ
▼材料/作りやすい分量 約120g分
あま酒 …… 大さじ2
木綿豆腐(水切りする)……50g(水切り前の重さ)
塩 …… 小さじ1/3
こしょう …… 少々
酢 …… 大さじ1
エクストラバージンオリーブオイル …… 大さじ1
▼作り方
すべての材料をミキサー(または、ブレンダー)でなめらかになるまで撹拌する。
保存期間:冷蔵庫で約3日間
あま酒ドレッシング
▼材料/作りやすい分量 約90mL分
あま酒 …… 大さじ3
酢 …… 大さじ1
エクストラバージンオリーブオイル …… 大さじ2
塩 …… 小さじ1/2
黒こしょう …… 少々
▼作り方
すべての材料をよく混ぜ合わせる。
保存期間:冷蔵庫で約2週間
PROFILE
舘野真知子(たての・まちこ)
料理研究家・管理栄養士。栃木で8代続く専業農家に生まれる。管理栄養士として病院に勤務後、2001年アイルランドの料理学校「Ballymaloe Cookery School」に留学。2003年に帰国後はフードコーディネーターとしてメディアなどで活動。2009年にはレストラン「六本木農園」の初代シェフを務め、新鮮な素材を生かして都市生活者の健康を意識した料理を提供。日本に伝わる伝統的な食文化を、現代の形に合わせてつないでいくワークショップなども企画・運営する。現在はフリーランスの料理家として、発酵料理をキーワードに、料理の楽しさや食べることの大切さを伝える活動をしている。