〈ウォーキングモデルコース〉
距離:約9km
所要時間:約2時間30分
平安時代に宇佐神宮の荘園となった田園地帯と、六郷満山の文化が投影された岩峰の仏教遺構を巡る。コースは、田園風景の中を行く道(①~④)、岩峰を上る山道(⑤~⑦)、県道沿いの比較的広い道(⑧~⑨)と、大きく3つのパートに分けられる。田園地帯は緩やかな上りと下り、県道沿いの道はほとんど平坦。山道には本格的な登山装備は不要だが、やや急峻で、鎖を使う岩場もあるので、滑りにくい靴で臨みたい。体力に自信がない場合は、ほたるの館(④)から山道を通らずに真木大堂(⑧)を目指すのもよい。
大分県の北東部、丸く突き出た形の国東(くにさき)半島。この地に根付く文化を「六郷満山(ろくごうまんざん)文化」という。「六郷満山」とは、両子山(ふたごさん)を中心とする国東半島の谷筋の6つの郷(六郷)に散在する寺院群の総称。古くからある山岳信仰を母体としながら、全国の八幡宮の総本宮である宇佐神宮の神の生まれ変わりとされる仁聞菩薩(にんもんぼさつ)が、奈良時代に国東半島に28の寺院を開いたことにより、神道と仏教、山岳信仰が融合した、国東半島独特の神仏習合文化が花開いたと言われる。
その6つの郷のうちの一つが、現在の豊後高田市田染地区である。平安時代に宇佐神宮の荘園となった田園地帯「田染荘(たしぶのしょう)」が広がるこの地域は、国の重要文化的景観に選定、またユネスコ未来遺産に登録、さらには世界農業遺産*に認定された「国東半島宇佐地域」の一部でもあり、日本の原風景を今に残している。
自然と人の営みが一体となった里山の風景と、信仰文化を現す仏像などの造形物を楽しめるコースを歩く。* 世界農業遺産:食料の安定確保を目指す国際組織である国際連合食糧農業機関が、次世代に受け継がれるべき伝統的な農業・農法とそれに関わって育まれた文化、景観、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農業システムを認定するプロジェクト。
県道34号沿いに立つ田染公民館を起点とする(①)。30台ほど止められる駐車場と、トイレが利用可能だ。駐車場の入口には、今回のコースを含んだ5km強の「田染地区ウォーキングコース」の案内図もある。
公民館の門を左に出て、県道34号を道なりに400mほど行ったところにある十字路を右に折れる。神社を囲む白壁に沿って歩けば、左手に元宮磨崖仏(もとみやまがいぶつ)を祭る木造の覆い屋が見える(②)。
「磨崖仏」とは岩壁に彫刻された仏像のことで、火山活動の影響でできた軟らかい石質の岩峰が多い大分県には、多くの磨崖仏が存在する。中でも国内最大級なのが、同じ田染地区にある「熊野磨崖仏(くまのまがいぶつ)」。
元宮磨崖仏は、熊野磨崖仏と合わせて国の史跡名勝天然記念物に指定されていて、鎌倉~室町時代に造られたとされる重要な史跡のひとつである。熊野磨崖仏はここから南へ5kmほど行ったところにある。
先ほどの十字路に戻り、県道34号を右折、次の丁字路で左に入る。車通りの多い大通りから、一気に静かな里山の住宅地の雰囲気になり、のんびりとしたウォーキングが楽しめる。
右手に田園風景を眺めながら1kmほど進み、延寿寺(えんじゅじ)の駐車場を過ぎた先が、国の重要文化的景観に指定されている「田染荘小崎(おさき)の農村景観」にあたるエリアだ(③)。
743年の墾田永年私財法制定により開墾された緩やかな傾斜地の田園風景が広がる。11世紀前半には宇佐神宮に奉納する米をつくる荘園となり、当時の景観をとどめる農村の遺産として知られる。今もなお現役の水田である。ちなみに延寿寺の敷地にはかつて、田染荘の年貢を取り立てる荘官・田染氏の屋敷があった。
「荘園」に囲まれたほたるの館(④)は、田植え祭や収穫祭、その他の季節のイベントが催される際に飲食店の出店でにぎわう、小崎地区の中心施設。この後には、やや急峻なハイキングコースが控えているので、その前にここでトイレ休憩を済ませておこう。
ほたるの館から東側に見える岩峰・間戸ン岩。のどかな田園の中に巨大な奇岩がそびえる様は、田染ならではの風景といえる。次のポイントの朝日観音・夕日観音は、この間戸ン岩の中腹にある。六郷満山信仰では、国東半島で仁聞菩薩が修行した山々の聖地を巡ることを「峯(みね)入り」と言うが、比較的気軽に国東半島の岩峰を登ることができる間戸ン岩の登山道は、「プチ峯入りコース」としても知られる。
ほたるの館を出て、田んぼを左に見ながら坂を下っていく。朝日観音と夕日観音への登山口はやや分かりにくいところにあるので、随所の分岐点に立つ「朝日・夕日観音」と書かれた案内板の矢印を頼りに進もう。
山道と言っても、20分程度の道のりで、途中までは石段が整備されているので、本格的な登山装備は不要。また分岐には案内板が置かれていて、道に迷う心配もほとんどない。ただし、鎖を頼りに上り下りする岩場もあるので、滑りにくい靴を履いた上で、軍手やトレッキンググローブもあると便利だ。
森林浴を楽しみながら10分ほど上ると、朝日観音と夕日観音に分かれる分岐に着く。まずは左の朝日観音を目指す。やや急な岩場を、鎖を使って数m上り、同様に下った先に、大人が5~6人入ればいっぱいになる程度の小さなスペースがあり、朝日観音が祭られている(⑤)。
来た道を戻り分岐の反対側、夕日観音へ向かう。こちらは朝日観音への岩場ほど急ではないが、道幅は狭いので油断は禁物だ。朝日観音と対になる向きで、岩壁のくぼみに祭られているのが夕日観音(⑥)。
東側の朝日観音からは朝日が見え、西側の夕日観音からは夕日が見えることがその名の由来とされている。景観が良いのは夕日観音の方。歩いてきた田染荘の田園風景が一望できるスポットで、今回のコースのハイライトと言える。夕日観音から5分ほど下ったところにも展望台が設けられているので、余裕があればこちらにも立ち寄りたい。
引き続き山道を歩いて穴井戸(あないど)観音に向かう。道中はこれまでより起伏が少なく、気持ちのいい竹林だが、倒木や、落ち葉で滑りやすい箇所には要注意。ここも案内板に従って進めば、迷うことはないだろう。
奥行約30m、幅約20mの洞窟の奥に穴井戸観音の像が祭られており、神秘的な空間を体験できる(⑦)。洞窟内では、コウモリが目の前をちらちらと飛び交う。
像の脇には「仁聞の隠れ水」と呼ばれる湧き水が出ている。仁聞菩薩がここで喉を潤したという伝説があるが、コウモリが多くいるため、飲用は控えた方がよさそうだ。洞窟内には日が入らず真っ暗なのだが、出入口にあるスイッチで、拝観者がそれぞれ照明をつけて、帰る時に消していくというルール。照明を消す際には、後から入った参拝客がいないかどうか声をかけるなどして確認しよう。
山道から出たら、県道655号を経て真木大堂(⑧)へ向かう。ここからは打って変わって、歩車道の区別のある広い道が多く、歩きやすい道に変わる。穴井戸観音から真木大堂までは1km強の距離である。
真木大堂には、旧本堂と収蔵庫、石塔などが並ぶ古代公園がある。
旧本堂は、仁聞菩薩が開いた六郷満山最大の寺院「馬城山伝乗寺(まきさんでんじょうじ)」のお堂だったと伝えられるが、残念ながら火災で焼失し、現存するものは江戸時代に再建されたもの。旧本堂には国指定の重要文化財である仏像9体を有しており、現在は収蔵庫に移されて保管されている(拝観は有料)。
最後のポイントである三の宮の景は、真木大堂からは約2kmの道のり。県道34の右側の歩道に桂川が迫り、大きく右へカーブすると、対岸に巨大な岩峰群が見えてくる(⑨)。
日本新三景に数えられる大分県中津市の耶馬渓(やばけい)になぞらえて、別名「田染耶馬」とも呼ばれ、対岸の遊歩道から、桂川と四季折々の岩峰の風景を楽しめる。道を挟んで観覧客用の駐車場とトイレがあり、利用可能だ。
奇岩の景観を堪能したら、県道34号を道なりに田染公民館へと戻ろう。
今回のコースは、これまでも何度かウォーキング大会で使っています。田染地区の田園風景と、六郷満山信仰を反映する仏像などをコンパクトに楽しめるコースです。大会では田染公民館(①)か、すぐ近くにある小学校の駐車場を基点にすることが多いです。
見どころは何と言っても田染荘(③)の田園風景です。田んぼに囲まれながら歩くこともできますし、上から眺めることもできます。ほたるの館(④)の北西にある展望台からも見下ろせますが、秋になって、夕日観音(⑥)から眺める景色が一番ですね。10月には稲穂が実って、黄色く染まった田園が広がる様は見ごたえがあります。
朝日観音(⑤)への道は狭くて急なので要注意です。大人数で歩く大会の時は、コースから外しています。
少し足を延ばすと、熊野磨崖仏や富貴寺(ふきじ)にも行くことができます。熊野摩崖仏は国指定の重要文化財ですし、富貴寺大堂は国宝に指定されています。
富貴寺は仁聞菩薩が開いた由緒あるお寺ですが、11月頃には紅葉が始まり、しばらくするとイチョウの黄色い葉っぱが落ちて、一面じゅうたんみたいになって見事ですよ。熊野磨崖仏は田染公民館から約5km、富貴寺は田染公民館から約4kmのところにあります。
私は50代後半になってから、体力づくりのためにウォーキングを始めましたが、63歳の時に初めて100kmウォークを完歩しました。その100kmウォークでは20時間を切ることができずに、とても悔しい思いをしたのを覚えています。
市が開催する健康教室で知り合った仲間と一緒に始めたウォーキングですが、やはり大会となるといい記録で完歩したくなりますね。はっきりした目的や目標があると、ウォーキングは一層楽しくなります。
PROFILE
竹丸紀元(たけまる・のりもと)
1957年、豊後高田市生まれ。1年大阪で働いたのち、豊後高田市内にある両親の知り合いの運送会社で40年以上勤める。現在は地元の建設会社で現場監督。56歳の頃に体力づくりのため、市内の「花いろ温泉」にあるトレーニングジムで行われていた健康教室に参加したところ、担当者だったウォーキング協会の事務局員に誘われてウォーキングを始め、そのまま豊後高田市ウォーキング協会の理事に。2023年から会長を務める。晩酌は毎日、焼酎の麦茶割りか水割り、冬はウイスキーのお湯割りで。