〈ウォーキングモデルコース〉
距離:約7km
所要時間:約2時間
県南の四浦半島を歩くコース。峠を挟んで東側は豊後水道を眺める砂浜、西側は漁師町の生活道路と、それぞれ違った表情を見せる海岸沿いを周回する。あちこちに河津桜の並木があり、春先には桜と海を楽しみながら歩くことができる。東西の海岸の間はやや急な登りだが、高台から見下ろす海辺の風景は見事だ。体力に余裕があれば、周回後、半島の北端の間元(まもと)港近くまで、往復約5kmのコースに足を延ばしてもいい。
津久見(つくみ)湾岸に面した松ヶ浦漁民広場には、津久見市青少年研修センターと越智(おち)小学校(2023年10月現在、休校中)があり、小学校前には20台ほど停められる駐車場とトイレがある。ここを基点としてウォーキングを始めよう(①)。
大分県の南東、豊後水道に向かって突き出た四浦(ようら)半島の北側が津久見市だ。2004年に選定された「美しい日本の歩きたくなるみち500選」*では、半島の北西の付け根あたり、JR九州・日豊本線の日代(ひしろ)駅から沿岸を歩くコースが採られていたが、トンネルができたことにより交通事情が大きく変わったため、ウォーキング大会ではもっぱら東寄りの高浜海岸沿いを歩くコースが採られるようになった。今回はこれにならい、高浜海岸側のコースを紹介する。*美しい日本の歩きたくなるみち500選:2004年、一般社団法人日本ウオーキング協会が国土交通省などの後援のもと、全国から選定したコース。日本の美しい四季と景観、地域の観光資源、歴史資源、文化遺産、食の道などを訪ね歩くことを目的とする。
広場から外へ出ると早速、美しい津久見湾の景色が迎えてくれる。海を右手に、青少年研修センターの敷地に沿って歩道を150mほど行くと、「高浜海水浴場」と書かれた看板があるので、この分岐を左に折れる(②)。
約300mの高浜トンネルを抜けてしばらく道なりに歩くと、一気に視界が開けて、白い砂浜の広がる高浜海岸に出る(③)。
サラサラとした白い砂と青い海が美しい高浜海水浴場は、ウェディングフォトの撮影にも使われることがある。海水は透明度が高く、ウミガメの産卵地としても知られている。砂浜に降りても突き当たりまでずっとコースと並行しているので、しばし波打ち際を歩くのもいい。
海岸を離れると左右を木々に挟まれる道に入り、本格的な峠越えの様相を呈してくる。道幅が狭くカーブも多いので、車に注意しながら歩こう。左右を覆うのは、2~3月に見頃を迎える河津桜の並木だ。
200mほど登り、左手の並木が途切れた辺りが、このコース随一の絶景スポット(④)。立ち止まり、振り返ってその景色を堪能しよう。高台から先ほど歩いてきた高浜海岸を見下ろせて、春先には青い海に河津桜のピンクが映える、見事な風景を楽しめる。
2004年10月、台風23号による大雨が広い地域で大きな水害をもたらし、津久見でも住宅が倒壊するなどの被害があった。地元の有志らが翌年に復興のシンボルとして四浦半島で植樹を始めたのがこの河津桜で、今では半島に5,000本以上が植えられている。毎年2~3月には「豊後水道河津桜まつり」、それに合わせて「豊後水道絶景ウォーク」が開催され、今回紹介するコース上でも、山中の道を中心に、越智小学校や田ノ浦港の近辺で、沿道の桜並木を眺めながら歩くことができる。
ここからはその桜並木に囲まれた山道を登っていく。
登りはさらに続くが、桜並木の木陰は、さえぎるもののない海岸沿いが中心のコース中では貴重だ(⑤)。特に夏場は、涼やかな森林浴で気力を回復できるだろう。
高浜港から約2km続いた登りが終わるところで、県道541号に突き当たる丁字路(⑥)を右に折れると、今度は一気に落ノ浦港(⑦)まで下っていく。
これまでの登りに比べてかなり急な勾配の下りなので、転んでけがをしないように気を付けながら、落ち着いてゆっくり進もう。つづら折りの道を下っていき、ガソリンスタンドを左手に通過する辺りで、再び海が見えてくる。長く続いた登りから解放されて見下ろす漁港の景色は、白砂の高浜海岸とはまた違った趣で気持ちいい。
少し行くと右への分岐、続いて左への分岐があるが、いずれも曲がらずに直進する。お寺を左手に見て、さらにつづら折りを下っていくと、落ノ浦港に着く。漁船が停泊し、波止場に釣り人たちがたたずむ、のどかな港町の風景だ。広場で海を眺めて休憩するのもいい。
観光スポットの高浜海岸とは対照的な、生活感あふれる海岸エリアを歩く。ときおり地元の人とすれ違うこともあるだろう。右手に住宅が並び、左手に沖吉島(おきよしじま)という小さな島を見ながら行く、起伏のない海岸線の道では、穏やかな津久見湾の眺めを存分に堪能できる(⑧)。2kmほど行けば、出発地の越智小学校(①)に到着する。
ここまでの周回コースで約7km。余力があればぜひ足を延ばしたいのが、四浦半島の北端に位置する間元(まもと)港だ。越智小学校前からさらに北へ、海岸沿いを2.5kmほど行った先にある道の終点の岬からは、海を挟んで向こう、石を投げれば届きそうな距離に、保戸島(ほとじま)が見える。周囲4kmの小さな島で、海岸からの傾斜面に住宅が密集する景観は独特の雰囲気を醸している。この保戸島へは、津久見市の中心街にある津久見港からフェリーが出ており、25分ほどの船旅でアクセスできる。
越智小学校前まで戻ったら、広場で整理体操を行い、しっかりと筋肉をほぐそう。越智小学校から津久見市街地方面へ車で30分ほどのところにある魚介料理店では、保戸島の名物「ひゅうが丼」が食べられる。マグロの赤身にごまだれと薬味を和えてご飯に乗せた漁師料理は、海岸歩きの疲れを癒やすのにぴったりだ。
豊後水道ウォーキング協会は、津久見・佐伯(さいき)・臼杵(うすき)の県南3市を担当エリアとしています。大分県内の「美しい日本の歩きたくなるみち500選」のコース選定が始まった時、他のエリアは山間部が多かったので、豊後水道エリアでは海岸を歩くコースを選ぶことにしたんです。それで、四浦半島の北西にあるJR九州・日豊本線の日代(ひしろ)駅を基点として、津久見湾に浮かぶ多くの小島を眺めながら海岸線を進み、山沿いを歩いて戻ってくる周回コースを選定しました。
しかし、コースの近くに新しいトンネルができた影響で、山沿いの道が整備されなくなったため、ウォーキング大会でも半島の東の方、高浜海岸沿いのコースを採用するようになりました。毎年春先には河津桜まつりに合わせて「豊後水道絶景ウォーク」を開催していますが、その際もこのコースを採用することが多いです。桜の咲く高台から高浜海岸を見下ろす景色は見事ですよ。
大会では越智小学校前(①)から高浜海岸(③)、峠を越えて落ノ浦港(⑦)と時計回りに周回するのですが、実は反時計回りに歩くと、下りの途中で前方に高浜海岸を見下ろす絶景ポイント(④)が現れて、とても感動的です。ですが、落ノ浦からの坂はかなり急で登るにはきついので、あえて時計周りのコースを推奨しています。高浜海岸側を登り、景色のいいところで振り返れば、十分に素晴らしい景色が見られます。
ウォーキングの魅力は、知らない街を歩いて、車移動では分からないその街の景色を体験できることだと思います。角を曲がったり、坂を登った先に、それまでと全然違う景色がバーンと見える。高台から砂浜を見下ろすこの景色もそうですよね。こういうのって、やっぱり歩かないと体験できないです。私自身がウォーキングを始めたきっかけは健康のためでしたが、各地のウォーキング大会に続けて参加するうちに、そうした徒歩だから見える景色の魅力を知るようになりました。
大分県ウオーキング協会は地域ごとに支部があり、各支部が主導してコースをつくり、大会を開催しています。そのため、地元の人じゃないと絶対に知らないような道も歩けます。地元にウォーキング協会があるからこそ、自分で探しても絶対に出合うことのないような狭い道も、安心して歩けるわけです。ウォーキング大会に初めて参加するのはなかなかハードルが高いかもしれませんが、続けていると仲間もできますし、1回参加すると多くの人がリピーターになるので、ぜひ挑戦してほしいです。
PROFILE
上田孝吉(うえだ・こうきち)
1954年生まれ。42歳の時に健康維持のため医師から体重を落とすよう言われ、ウォーキングを始める。3年ほどウォーキングを続けた頃に参加した日田市の42.195kmのウォーキング大会で味わった達成感をきっかけに、全国の大会に参加するように。2001年のNPO法人大分県ウオーキング協会発足に携わり、2017~19年には3代目会長も務めた。2019年から豊後水道ウォーキング協会会長を務める。