風林
光水
photo&writing:相原 正明
風林
光水
photo&writing:相原 正明
えっ? 九州って雪が降るの? 久住(くじゅう)高原の雪景色の写真を関東で見せると、そう言われることがある。固定観念で、九州=南国=雪が降らないという認識になってしまうみたいだ。しかし実際のところ、例年11月中旬には阿蘇くじゅう国立公園の一角にある久住高原で初雪が降る。
初めて牧ノ戸峠(まきのととうげ)に行ったとき、雪質が意外とサラサラであったことに驚いた。もっと湿り気のある雪だと思っていた。この雪質ならば久住高原にスキー場があるのもうなずける。牧ノ戸峠登山口から沓掛山(くつかけやま)の展望台に雪を踏みしめて登るとき、峠を吹き抜ける強風で、そのサラサラな雪がガリガリに凍り付いて、アイゼン(靴に付ける冬山用の滑り止め)を持ってくるべきだったと悔やんだ。
展望台から望む峠の風景は、多くの木々が霧氷で覆われとても幻想的だ。牧ノ戸峠の霧氷は、大分の冬の景色としてとても強烈なインパクトがあった。それ以来、冬には久住高原、特に牧ノ戸峠を訪れるのが定番になった。
牧ノ戸峠の麓、タデ原湿原から見るくじゅう連山。冬の大分に来たら必ず見てほしい景色だ。淡い茶色の湿原と、その向こうにたたずむ黒々とした立ち枯れの木々、そして青空を背景にそびえる、雪をまとったくじゅう連山のコントラストは、とてもフォトジェニック。いつかここで、冬の星空も撮影したい。
鶴見岳も霧氷の名所だ。霧氷越しに海を望む絶景が楽しめる。ロープウエーで簡単に行けるが、その展望は九州随一と言っても過言ではない。冬こそおすすめだ。
そして冬と言えばやはり温泉。温泉の宝庫、由布院は朝霧の名所でもある。狭霧台(さぎりだい)から見下ろす由布院の盆地と、立ち上る湯煙は冬ならではの幻想的な風景を見せてくれる。
冬の大分は、写欲を掻き立てられる魅力にあふれている。
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。