風林
光水
photo&writing:相原 正明
風林
光水
photo&writing:相原 正明
島は“独立国”。大分の海岸線を南から北にかけて3つの気になる島、いや独立国を見ながら北上していった。
1つ目は屋形島。島を取り囲む大分から宮崎に連なるリアス海岸線の美しい景観に眼を奪われた。僕はリアス海岸には過酷な自然という勝手なイメージを抱いていたが、大分のリアス海岸は、のんびり暖かい。背平(せびら)山から島の方向を見やると、山が一気に海に駆け下り、森の養分が海に溶け出していくであろうことが見てとれる。だからここは魚の宝庫。多くの筏(いかだ)が入江に浮かぶ。
2つ目は民家が密集し城壁都市のような島。名前を調べると保戸(ほと)島。昔、マグロの遠洋漁業で栄えた島。家々が密集して立ち並び、軒が重なり合っていて「雨が降っても傘なしで歩ける」と言われるほど。真夏の焼けるような昼下がりに島を訪れた。
島に近づくと、船着き場の正面に密集した住宅群が、船に覆いかぶさるように存在していた。桟橋を下りた瞬間に眼に入る個性的な景観は、やはり独立国。連なる軒で焼けるような真夏の陽射しはしのげたが、僕は写欲をそそられる島に取り憑(つ)かれ、バッテリーが無くなるまで撮り続けて、暑さでフラフラになってしまった。
3つ目の独立国は、周防灘(すおうなだ)に浮かぶ姫島。光や風に瀬戸内を感じる。夏の瀬戸内の“熱くて”霞んだような船上の風景を眺めていたら、唐突に眼前に姫島は現れた。蜃気楼から現れた幻の土地のようだった。姫島では初盆はとても大切。泊まった宿の家族は、徹夜で初盆の食卓を用意していた。戻ってくる魂をもてなす人々の心が感じられた。島ではなぜか沖縄にいる錯覚にとらわれた。熱い風とゆったりした島時間のおかげだろうか?
大分の島旅。3つの国に行った不思議な満足感を得られた。次はどの国(島)に行ってみようか。
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。