風林
光水
photo&writing:相原 正明
風林
光水
photo&writing:相原 正明
橋とは川や渓谷などの上に架け渡す通路だ。でも旅をしていると橋はそれだけでなく、「人々の生活と文化と人生をつなぐ通路」だと感じる。宇佐市院内町の石橋群を見ていると、江戸から明治、大正に橋を造った人たちは、単に岸と岸をつなぐ以上に、自分たちの文化のアイデンティティーの証明、匠の技の証明をした場所と思える。100年近く経ちながら今でも、立派に存在して役割を果たしている。
深い山並みが多い大分は、橋の競演の地だ。例えば佐伯市(さいきし)の「唄げんか大橋」と玖珠郡(くすぐん)九重町(ここのえまち)の「九重“夢”大吊橋」。土木技術の結晶であると同時に、最高の芸術品のひとつだと僕は感じる。橋やダムは目的のために究極に無駄を省いて造られている。機能美の結晶である。その美しさは、大地にそびえ立つコンクリートと金属の肉体を持つアスリートのように見えてくる。写真家としてとても写欲をそそられ、そのフォルムを自分の眼の中でモノクロで撮り続けた。いつかは大分の橋のフォルムをじっくりモノクロで撮りたいと感じた。
大分は鉄道橋も魅力的だ。SL時代からJR九州の豊肥本線には鉄道ファンを魅了し続けてきた鉄橋が多い。中でも豊後清川駅と三重町駅の間にある百枝鉄橋(岩戸鉄橋)は「岩戸の景観」と呼ばれるほど有名だ。絶壁に架かる赤い橋は、鉄道がもっとも輝いていた時代の力強さがみなぎっていた。その美しさに魅了され日没まで撮影した。黄昏時に半月が昇るとき、列車がやって来た。月光に照らされた列車が橋を渡るとき、夢の中の銀河鉄道のようだった。
橋は夢と希望をつなぐ象徴だったのかもしれない。橋は川の上に架かる通路だけの存在ではないと感じた。
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。