風林
光水
photo&writing:相原 正明
風林
光水
photo&writing:相原 正明
コロナ禍の中、リモートワークが当たり前になり、それも後押ししてくれて、地方に移住する人が増えている。知人でも一人、大分の山の中に生活と仕事の拠点を移して新しいビジネスを展開している人がいた。この移住者たちの共通ワードが「環境」「自然」の素晴らしさ、だった。
派手なアイコンになるような風景は大分には少ないと感じる。だが1日、2日と滞在していると、心の中に染み込んでくる風景が多い。気がつくと大分の空気に自分が取り込まれている。「風林光水」の撮影中、空気がおいしいとしばしば感じる。その空気の中で育まれた大地の恵みが豊かな味わいを醸し出すのもよく分かる。
豊後大野でシイタケを撮影するためにまだ薄暗い夜明けの森の中に入っていった。朝霧の中、シイタケが、湿潤な空気を呼吸しているのがよく分かる。撮影で接写しようとシイタケに顔を近づける。「スースー」と呼吸する音が聞こえるようだった。森の中をキノコが踊る。それはまるでディズニーのファンタジアの世界だ。
森の大気が里に下りてきて、その中で作られる麦とネギ。森の空気とコラボして、育んでいるのがよく分かる。野菜は大地と空気が育てるといったことが実感される。国東半島の林道、なにかとても気になる道があった。山と森が呼んでいるのを感じた。そこに分け入ると、森の中を霧が覆い、春の花が咲いていた。
ここから大地の恵みの空気が生まれているよと、森の木々に言われたのを感じた。そしてくじゅう連山の山並み。そのふもとに人知れず艶やかな色気を振りまき咲いている枝垂れ桜と出合った。これも山の恵みの一つだ。
撮影した森の木や桜を触ると木が暖かかった。これは木が元気な証拠。大地のパワーがあふれている。大分は海と大地の恵みが出合う土地。食という人の欲求の原点を満たすエビデンスにあふれている。だがそれ以上に、心の中を満たしてくれるエビデンスは更にあふれている。心の栄養が枯れたと感じるとき、人はこの自然に向かう。また帰ろう、大分の大地に。
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。