風林
光水
photo&writing:相原 正明
風林
光水
photo&writing:相原 正明
撮影で世界を旅して気がついたことがある。人々が祈る場所というのは2つあるのではないかと。1つはとてつもなく自然環境が苛酷(かこく)な土地。もう1つは逆に豊潤な土地。僕は畏怖(いふ)と感謝が祈りをささげる原点だと感じる。
大分の地は紛れもなく後者、豊潤な土地だ。小さな小道、岩山の影、そして橋のたもとにも、人々の信仰の厚さを感じる石仏やお地蔵様がいらっしゃる。中でも目を引くのが、そそり立つ岩壁に、仏様を彫刻した磨崖仏(まがいぶつ)。日本の磨崖仏の約7割がここ大分にあるとも言われている。
六郷満山(ろくごうまんざん)文化と呼ばれる国東半島を中心にした宗教文化。山岳信仰を母体として、神仏習合の発祥の地、宇佐神宮の影響下で神と仏が習合し、併存するという独特な山岳宗教が育まれた土地。
初めて宇佐神宮を訪れたとき、僕は単なる神聖さを超える何かを感じた。そして大分の山の中で、お寺や神社、路傍(みちばた)の仏様や石仏に出合うたびに、信仰の厚さと、この大分の地の恵みへの人々の感謝を感じた。
ハイテク&デジタル、そして都市化が進む現代日本。人は宇宙と大地に感謝して祈ることを忘れつつある。口に入れるもの、眼から入るもの、耳から聞こえるもの、おのれの身体に取り入れる森羅万象が宇宙と大地からの恵み。
写真撮影と酒造りは似ている。写真は光と時間という宇宙からの恵みが無ければ生み出せない。お酒は水という宇宙からの雫(しずく)が無ければ生み出せない。太古の昔、人々が水や作物など大地の恵みを手にしたとき、自然と祈りが生まれたと感じる。人知を超えた何かが自分たちに恵みをもたらせてくれたと。
国東半島の山間(やまあい)で、自分がイメージした通りの朝陽が射したとき、天の恵みに感謝し、思わず手を合わせた。大分は祈ることを常に思い出させてくれる土地。その感謝を、写真を撮るときも、酒を味わうときも、そして自然の恵みで食事をいただくときも忘れないでいたい。
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。