風林
光水
photo&writing:相原 正明
岩から染み出すしずくが、連なり、滝になり川になり海に注ぐ。
それは蒸発し、雨になり大地に戻る。水は生きている。
水は姿を変えて撮影者に視点の引き出しの数を求めてくる。
立体感と荘厳さの表現を厳しく求めてくるのだ。
僕はその要求に受けて立った。
風林
光水
photo&writing:相原 正明
岩から染み出すしずくが、連なり、滝になり川になり海に注ぐ。
それは蒸発し、雨になり大地に戻る。水は生きている。
水は姿を変えて撮影者に視点の引き出しの数を求めてくる。
立体感と荘厳さの表現を厳しく求めてくるのだ。
僕はその要求に受けて立った。
大分県宇佐市内を流れ瀬戸内海の周防灘(すおうなだ)に注ぐ駅館(やっかん)川。僕の撮影の旅は夜明けの駅館川からスタートした。宇佐市は三和酒類が本社をかまえる地である。駅館川とその支流が潤す宇佐平野は、古くから知られた県内随一の穀倉地帯であり、昔からいくつもの酒蔵が営まれ、数々の銘酒を全国に送り出してきた地でもある。
乾燥した砂漠が多いオーストラリアで30年以上撮影してきた僕は、極度に水の香りに敏感になった。耶馬溪(やばけい)の川の水の香りに誘われるままに遡上し、たどり着いたのが魔林峡(まばやしきょう)の川。写真に撮ると「あれ、水があるの?」と思わせるほど透明だ。このピュアな水が素晴らしい森と豊穣の海を創り出す。大分の宝だ。
岳切(たっきり)渓谷には、岩盤が川底に敷かれた平らな川がある。唐突な深みがないので、子ども同士や家族連れが川の中を歩いて安全に遊べる。川に遊んでもらう、優しく水に包まれる、そんな所だ。僕も川底にほぼ腹ばいになり、超ローアングルから水の流れを撮影した。
夜明けの杵築(きつき)の奈多(なだ)八幡宮。小島に建つ元宮鳥居の向こう側に朝日が昇るとき、思わず手を合わせた。自然への畏怖を感じる。ランドスケープフォト(風景写真)というのは、大自然の恵みを写させていただくこと。写真家は何ひとつ自然界に創り出せない。自然を畏怖し一体となり撮らせていただく。もしかすると、自然の恵みでお酒を造らせていただくことと似ているかもしれない。
由布川峡谷では今回の旅の中で流れる風と水、そして地球のコアのエネルギーのようなものが強く感じられ、僕の“写欲”を沸かせてくれた。パノラマ写真を縦に使い、掛け軸風にも撮影した。水が姿かたちを変えるように、写真家も、視点を柔軟に変えないと作品は撮れない。僕の撮影は、単なる風景写真ではなく、地球のポートレイトだと考えている。46億年生きる生命体地球の表情を撮影すること。僕の造語だが、Earth+Portrait、すなわち「アースレイト(Earthrait)」と呼びたい。この中で水は最も大切なエッセンス。常に変化する水の表情をいかにとらえるかは永遠のテーマだ。
①安心院周辺
山々に囲まれた盆地。早朝には深い霧が立ち込める
③④岳切渓谷
宇佐市院内町にある岳切渓谷は耶馬溪溶岩が造った大きな一枚岩の岩盤の上を清らかな水が流れる
②⑤A駅館川
夜明け。宇佐市内から周防灘に抜ける河川。海から駆け上る潮の香りも混じり合う
⑥魔林峡
中津市山国町に位置する。猿飛の甌穴(おうけつ)群の下流1.5kmに延びる渓谷
⑦由布川峡谷
別府市と由布市にまたがる長さ約12kmの峡谷
⑧奈多八幡宮
杵築市に鎮座し、奈多海岸のほぼ中央から見ることができる
⑨龍岩寺(宇佐市院内町)
周辺を包み込む森林
⑩三和酒類
宇佐市に本社と工場を置く三和酒類の敷地内にある源水。地下から良質な水を汲み上げている
PROFILE
相原正明(あいはら・まさあき)
写真家。1958年生まれ。学生時代より北海道、東北のローカル線、ドキュメンタリー、動物、スポーツなどを撮影。1988年に8年勤務した広告会社を退社し、オートバイによる豪州単独撮影ツーリング実施。豪州最大規模の写真ギャラリー「ウィルダネスギャラリー」で日本人初の大型写真展開催。他にもドイツ、アメリカ、韓国でも個展を開催。タスマニア州政府フレンズ・オブ・タスマニア(親善大使)の称号を持つ。「しずくの国」(Echell-1)、「ちいさないのち」(小学館)、「誰も伝えなかったランドスケープフォトの極意」(玄光社)など著書多数。